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灼 ―よさこい進化論―
<29>
第3部 踊らにゃ 分からん
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ごった煮のなべだ

 よさこいは、鳴子踊り二日目になるとますます勢いを増す。疲れ知らずの踊り子は、遊び足りない子供のように跳びはねる。

衣装も自由でさまざま。ごった煮のなべの中で目が回るようなダンスが続く(追手筋本部競演場)

 八月十一日の午後。わが「ユニティビート」は高知市上町二丁目の城西館前へ。ここで初期のスタッフだった中岡功治さん(38)らが率いる「チームゲット」と一緒になった。いわば兄弟チームだ。輪になってセッションが始まる。

 片方のチームが踊る間、もう片方は鳴子を打ち振り、リズムに合わせて体を揺らす。かわらふき職人でスタッフの南部和寿さん(38)は「チームゲット」のかつらをかぶり、輪の真ん中ではちゃめちゃに陽気なステップを踏みだした。鳴子の音が響き合う。

 いい気分で中央公園に行くと、この連載の取材で知り合った「帯屋町筋」の踊り子の土居朱美さん(32)と札幌市から踊りに来た武部八恵さん(26)にばったり。武部さんは「どうしましょってくらい楽しい。もう私、高知に引っ越す!」とはしゃいでいる。二人は「大喜びぃー」のポーズで上手に舞い続ける。

 そばでは「よさこい盛り上げ隊」と書いたたすきを掛け、ビキニや民族衣装を着た女性が笛をピーッ。岩合曜子さん(29)と野上麗子さん(28)の二人組で「踊り子にテキーラ配って、手作りのメダルをあげてるの。テンション上げて盛り上げなきゃ!」。つまり一種のボランティア活動。あちこちのチームに乱入しては好き勝手に踊っている。

 「訳が分からんわ」とあきれていると、全身にシイタケを張り付けたももひき姿の男や、ウルトラマンにふんした大学生たちが、「ユニティビート」のメンバーからもらった酒を飲んでカカカと笑っている。

 よさこいは、ごった煮のなべだ。目が回る。

     

 移動のバスの中では、さっきから「メダル」談義が続いている。

 各地区競演場には審査員がいて、踊りがうまい人や表情のいい人、一生懸命な人、ユニークな人たちに小さな鳴子型の金色のメダルを掛けてくれる。九カ所で計一万千五百個。追手筋本部競演場では、花をかたどった千四百個のメダルが踊り子に贈られる。

 「なんでもらえないんだろう」と首をひねる矢野博音さん(27)の周りで、「大きくはじけて踊って、思いっきり笑うのよ」と仲間がアドバイスしている。二年前はメダルがもらえず、胸にマジックで「メダル」と書いて踊った「かわらふき職人」は、ことしは早々にもらってご満悦である。

 かくいう私も、「いい大人があんなもの」と思いつつ、中央公園でメダルを掛けてもらった時は、うれしさのあまり跳びはねながら踊りの列に戻ったものだ。頭の奥でチューン! 天ぷらなべに具を入れる音がした。

 地区の審査員は踊りの専門家でもなく、自分の好みで選ぶだけ。冷静に考えたらこれといった権威もない。それがなぜ、これほどうれしいのか。だれに聞いても「よう分からん」のである。

     

 夕やみ。ラストダンスが近づく。「ユニティビート」は、追手筋のカナリーヤシのわきで、ほかのチームと鳴子を振り合いながら出番を待っている。

 横では「四国開発グループ」が、ダンスインストラクターで“アングラ女優”の大村憲子さん(46)の笑顔を先頭に、激しいダンスを始めた。私たちの地方車の上では、音楽担当の近藤充彦さん(32)が「四国開発に負けるなぁー!! おれたちユニティビートはぁー! のほほんと行こう」と、和やかに踊り子をあおる。

 「うにゅーん…」。聞き慣れた音楽が流れ出す。跳ぶ、交わる、はねる。色とりどりのスポットライトを浴びて、踊り子たちは糸が切れたたこのようにのぼり詰めていった。シャンシャンシャン。夏を惜しむセミのように鳴子が響いた。

                                (社会部・石井研)

 【写真】衣装も自由でさまざま。ごった煮のなべの中で目が回るようなダンスが続く(追手筋本部競演場)


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