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灼 ―よさこい進化論―
<28>
第3部 踊らにゃ 分からん
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快感こみ上げる

 わが「ユニティビート」での踊りの練習は、日に日に楽しくなっていった。私にも学習能力があるとみえ、それなりに踊りは身に付くからである。あんなに嫌々参加したのに、よさこいも悪くはないな。そう思うようになってくる。

笑顔、笑顔。はじけていくユニティビートの踊り子(高知市の帯屋町2丁目)

 時には会社のトイレの鏡で、「決めの笑顔」をつくってみる。アパートの部屋や会社の休憩室でシャツを脱ぎ、跳ねてみる。冷ややかに見ている同僚を、「分からないだろうなあ」と見下してみる。

 「うにゅーん…」の響きで始まる音楽が頭から離れなくなったころ、衣装をもらった。アパートにいそいそと持ち帰り、緑が基調の縦じまの法被を着て、カレー色の布を頭に巻いた。私の部屋には鏡がないので、銀色のスプーンの裏に映してみると、貧相な踊り子が湾曲して映っている。

 「爆発できるかなあ…」。そうつぶやき、でも少し浮き浮きしながら、祭りへ突入していった。

     

 九日。前夜祭。高知市の中央公園に「ユニティビート」の踊り子たちも集まった。出演時間は四分半。よりすぐりのメンバーで臨むチームもあるが、「ユニティビート」は出たい人が参加できる。緊張しながら出番を待ち、鳴子を振りながらステージへ飛び出した。

 音楽担当の田所昭彦さん(29)らの軽快な掛け声に合わせ、踊り子が舞う。私もステージの一番後ろの端っこで、ちょこまかと鳴子を振る。でも私、時々、踊りを間違う。二列前の男の子も間違う。田所さんは、掛け声を間違う。つられて数人、踊りを間違う。

 「ユニティビート」はのどかに舞う。踊り子はまだ、はじけてはいない。結果、賞には入らなかった。

     

 十日。いよいよ祭り本番だ。集合場所の上町競演場に午前十時すぎに行くと、インストラクターの近藤美和さん(33)らが踊り子を整列させていた。深夜の練習ばかりに出ていた私は、踊り子が百人以上もいたことに少し驚き、一番後ろに並んだ。競演場には早くもぼつぼつと観客が集まり、お年寄りがぱたぱたとうちわをあおいでいる。

 「うにゅーん…」。例の音楽が先導の地方車から流れ出し、どっしり腰を落としたポーズの踊り子たちが、道の中央に並んで鳴子を左右に振りだした。私も少し緊張しながら体を動かす。ああ、これが踊り子の気分か。初めて車を運転した時のような、くすぐったい快感がこみ上げる。

 人々が道を開けてくれる。「暑いじゃろう」とおばあさんがあおいでくれる。踊り終わった後、商店街の人たちがサービスしてくれる麦茶や水のおいしいこと。私たち踊り子は、祭りの中心にいる。

 次は升形競演場。その次に長い長い万々競演場を汗だくで踊り終えたころ、「ああ、これは夢中で遊ぶ子供の気分だ」。高揚している自分に気付いた。

     

 帯屋町アーケードで踊る前になって、私はひとまず鳴子を置き、わがチームの写真を撮ることにした。この連載用に撮っておこう、そう思ったのである。

 脚立を持って踊り子の先を走る。カメラ越しにみんなの踊りを見つめる。踊り進むにつれ、みんなきっとへとへとに疲れて、動きが止まるんだろう。そう思っていた。ところが違った。逆にみるみる動きがよくなり、笑顔がまぶしく輝きだした。じんじんと後頭部がしびれてきた。

 「どうぜ。ストリートで踊ったら、みんなあ違うろうが」。踊り子を先導するリーダーの健ちゃん=吉岡健児さん(37)=が、鼻をピクリと動かした。

 踊って息が切れると、彼らはなぜか、笑い出す。鳴子がザッ、ザッ!と雨のような音を立て、きれいに打ちそろう。みんなはじけている。背中から後頭部へ、じわーんと電流が流れた。これか。これが、よさこいか。

                                (社会部・石井研)

 【写真】笑顔、笑顔。はじけていくユニティビートの踊り子(高知市の帯屋町2丁目)


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