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祭りが近い。踊り子たちが浮き浮きそわそわと落ち着かなくなった八月初め。私が参加した「ユニティビート」は地方車も組み上がり、練習は佳境に入っている。おぼつかなかった私の踊りも、われながら板に付いてきたな、と思う。
「北海道から踊りに来た子がおるよ」。そう聞いたのはこのころだ。「帯屋町筋」チームで踊るためにたった今、飛行機で着いたばかりだという。
よさこい祭りには毎年、北海道からYOSAKOIソーランのチームがやってくるが、ことしはそれ以外にも個人やグループで高知のチームに参加する踊り子が目立った。中には仕事を辞めて踊りに来た女性もいた。そこまでしてなぜまた、と疑問に思っていたところだ。
自転車を走らせて高知市の帯屋町筋協同組合の事務所に会いに行くと、はや特訓が始まっていた。先生役は「帯屋町筋」踊り子の土居朱美さん(32)。見よう見まねでついていくのは札幌市の武部八恵さん(26)。
「さあ、鯨を捕まえたよー。ここで思いっきり喜ぶがー。大喜びするがやきー。大喜びぃー、大喜びーぃって」。土居さんの声に引っ張られて、武部さんは楽しそうに踊っている。
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武部さんは、YOSAKOIソーランチーム「天舞竜神」の踊り子。冬は除雪車の運転手、それ以外はマンション管理人をしている。長期休暇を取って高知にやってきた。
三年前から札幌で踊っているが、「本場のよさこいを見たい」と昨年、北海道高知県人会チームに加わって初めてよさこいに参加した。小さなワゴン車を先頭に、たった八人のチームだった。
「でも踊れる、踊れる。頭がキーンって鳴ってハイテンションで。自分の頭がこの辺に、高い所についている感じ。ラストダンスなんか、みんな、だあーって涙流すわ、鼻水流すわ。もう楽しいの」
そこでことしは「高知のチームで踊りたい」と、県北海道事務所に「帯屋町筋」を紹介してもらったのだという。
「YOSAKOIソーランも本当にいいんだけど、高知のよさこいがすごく好きなんですよ」
「なぜまた高知に?」の私の疑問に、武部さんはこう答えた。
「あっちは四カ月ほど前から練習があって、練習中は私語も禁止。本番もお酒は飲めないし、踊り子は道の端っこを歩きなさいとか決まりも多くて。踊りもセントラルをまねたチームが多くて、どうも似ているし。でもこっちは自由で、いろんな踊りがあって、もうびっくり。私はこっちにはまったの」
◇
その武部さんを付きっきりで教えるのは「よさこいが何より好き」という土居さん。二人はたちまち汗びっしょり。「ちょっと休もう」と座るが、すぐよさこい談議で盛り上がり、立ち上がっては踊り出す。
「『天舞竜神』の踊りはこんなんです」と武部さんが踊れば、土居さんは正調のよさこいを披露する。「雪の感じがよう出ちゅうわあ」「朱美さんこそ、そんなに楽しそうに踊る人、初めて見た」
あんまり二人が楽しそうなので、私もつい「僕のを見て」と踊り出してしまった。毎晩通って練習している「ユニティビート」の踊りだ。「うまいうまい」と武部さん。土居さんは「一つだけね。うつむかんこと。顔を見てーって思うこと。世界の中心は私よーって思うこと」とアドバイスしてくれた。
なるほど、「世界の中心」か。心が弾む。何だか浮き浮きしてきた。すっかり舞い上がって会社に帰ると、くたびれた顔の同僚記者が話しかけてきた。
「練習、楽しいっすか」「楽しいね」「何で?」「理由はない」「何で?」「だから…。踊らにゃ分からん。つまらんこと聞くな!」
(社会部・石井研)
【写真】鳴子を大きく振って「大喜びぃー」。笑顔いっぱいで練習する土居朱美さん(左)と武部八恵さん(高知市追手筋1丁目の帯屋町筋協同組合事務所)
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