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灼 ―よさこい進化論―
<25>
第3部 踊らにゃ 分からん
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地方車は村祭りの味

 「地方車はよさこいの『みこし』やき。これを組み上げると、ああ、もうじき祭りやねえって、みんなあ、なんか、そわそわした気分になるがやき」

地方車の柱を組み上げていくユニティビートのスタッフ(高岡郡佐川町永野)

 八月初めの炎天下。私が踊り子として入れてもらった「ユニティビート」のリーダー、健ちゃん=吉岡健児さん(37)=たちが、高岡郡佐川町の資材置き場で地方車づくりを始めた。

 地方車でドラムをたたく設計士の田所昭彦さん(29)、健ちゃんの幼なじみでかわらふき職人の南部和寿さん(38)、釣りざお職人の山本昌司さん(38)ら、スタッフの中でも飛びきり元気で器用な八人が集まった。とはいえ、立ちくらみしそうな暑さ。男衆はたまらずシャツを脱いだ。

 地方車とはボディーにチーム名を飾り付け、音響機器を積んで演奏しながら、踊り子の先頭を行くトラックのこと。「ユニティビート」の地方車は四トントラックの荷台に柱を立ち上げ、板を張って作っていく。

 柱は六年前、そのころ林業をしていた南部さんらが山で切り出してきて、知り合いの大工さんに作ってもらった。ふだんは工具類と一緒にこの資材置き場に保管してあり、一年に一回、祭りが近づくと運び出してスタッフで組み上げる。

 「きょうは屋根まで作って三、四時間ってとこかな」。電気職人のノリマキ君=長野智優さん(25)=が弾んだ声で、ほこりをかぶった柱を次々と外に運び出していく。あとは一気に組み上げるだけ。

 「どいたあ!? こりゃあ柱が立たんじゃいか」。いつもの甲高い調子で叫んだのは健ちゃんだ。トラックに積んだ発電機の横幅が長すぎて、荷台に柱が立たないのである。スタッフの一人が気を利かせすぎて、昨年より出力の大きな発電機を借りてきたのだ。とんでもない大失敗だった。

 さあ困った。男衆はトラックを囲み、腕を組み、思案に暮れだした。

 「発電機、縦に置いたら?」「僕のドラムが置けんなる」「ほんならおまん、道へ降りて小太鼓をたたけ」「それはいかん!」「ほんならデッキの上に置け」「置けるかー!」

 南部さんが座り込み、くたびれた口調で続ける。「もうえいやか、ビール買うてきて、みんなあでトラック眺めよろうや」

 セミが鳴いている。

     

 地方車はいわばチームの顔。衣装と並んで、よさこいで最も金がかかる。音響機器のレンタル料も高く、トラックの借り賃と合わせ百万円前後は必要だ。数百万円を投じて工務店などに製作を発注するチームも多いが、金のないクラブチームは手作りで組み上げる。

 ただ、「ユニティビート」はスタッフが建設会社を経営しており、無料でトラックが使えるのが強み。ことしの製作費は五十万円ほどで済んだ。

     

 さて男衆。思案に暮れること一時間半。問題の発電器は後日、小型に借り換えて積み直すことに決めた。そうと決まれば作業は早い。さお職人が梁(はり)を渡し、かわら職人が屋根を張っていく。健ちゃんは屋根でネジを締めている。

 ミーンミーン。暑苦しい鳴き声。トントン、カンカン。かなづちの音。時折ザーッと雨。「毎年降るがじゃ、すぐやむわー」。トントン、カンカン、トントン。

 健ちゃんと友達の「上町よさこい鳴子連」の岡崎直治さん(47)は、こんなことを言う。

 「突貫工事でステージ作ってやなあ、さあ踊れーって、そんなんはイベントという。準備して、踊り子が浮き浮きして、町がざわざわしだして、お年寄りらあが『ことしも鳴子やねえ』って言うてくれて。それが祭りという。前触れがあるから、祭りになる」

 トントン、カンカン…。地方車づくりは、村祭りのにおいがする。

                                (社会部・石井研)

 【写真】地方車の柱を組み上げていくユニティビートのスタッフ(高岡郡佐川町永野)


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