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灼 ―よさこい進化論―
<9>
第1部 鳴子文化圏をゆく
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東北に根付く兆し 宮城県仙台市(下)

 「『YOSAKOIこんぷく』ってご存じですか?」

 初耳だった。

東北で復元された遣欧使節船の進水5周年イベントで披露された鳴子踊り。よさこいは東北に根付き始めている(宮城県石巻市)

 「じゃあ『ヤートセ秋田祭り』は?」

 それも聞いたことがない。

 なんですかそれ、と問い返すと、宮城県仙台市の「みちのくYOSAKOI祭り」企画運営委員会事務局長、嶋津紀夫さん(58)がにっこり笑った。

 「いやね、東北じゃあ仙台のほかにもよさこいをやろうっていう動きがあるんですよ」

 そんなこと、全然知らなかった。「教えてください」。メモを取る手に思わず力が入った。

     

 「YOSAKOIこんぷく」とは何か。

 「こん」は「魂」、「ぷく」は「福」。「YOSAKOIが魂を揺さぶる、福島を変える」をキャッチフレーズにした、福島県初の踊り子チームだという。

 会長で福島市在住の佐々木光洋さん(29)と仙台で会った。取材中にたまたま「みちのくYOSAKOI」の実行委メンバーを訪ね、福島から車を飛ばしてやって来たのだ。

 「昨年、テレビのニュース番組で札幌のYOSAKOIソーランを見て、あ、これだと思ったんです」

 「とりあえず踊んなきゃ始まらん」とことし四月、仲間と八人でチームを結成した。呼び掛けに応じてこの秋の「みちのくYOSAKOI祭り」に参加するという。さわやかな酪農青年だった。

 「ヤートセ秋田祭り」の関係者とは、高知に帰ってから連絡を取った。実行委員長は秋田市在住の秋田大生。こちらもYOSAKOIソーランに間接的に触発され、「市民が参加できる祭りを」と実行委を結成。秋田民謡をアレンジし、二十一日に秋田市で第一回の祭りを立ち上げる。

 「今回はゼロ回のつもり。まず見てもらい、来年からみんなで参加しませんかと呼び掛けたい」

 「ヤートセ」とは秋田音頭の掛け声。鳴子こそ持たないが、コンセプトはよさこいそのものだ。

 さらに岩手や山形にも呼応する動きがあるという。驚いた。本家高知があずかり知らない所で、よさこいはどんどん自己増殖を続けているのである。

     

 言われてみれば、東北仙台にはよさこいが根付く要素がそろっている。

 まず東北は、民謡の宝庫といわれるほど各地に多彩な民謡がある。アレンジの素材には事欠かない。加えて仙台への一極集中が進行。東北各地から古里の民謡を背負った人々が集まっている。さらに「学都」と称される学生の街。祭りを支える若者も豊富だ。

 まだある。浅野史郎宮城県知事が「実現すれば私も踊る」と大乗り気。実行委メンバーが協力要請に出向いた際、祭りを仲立ちにした南北交流について「実は高知と北海道が仲良くしているのにやきもちを焼いていたんです」との発言もあったという。東北恐るべし…。

     

 極めつきは、嶋津さんの次の一言だった。

 「実は今晩、石巻市でよさこいがあるんです。行ってみましょうか」

 なんでも石巻では伊達政宗ゆかりの遣欧使節船が復元されて観光名所になっており、その五周年イベントで鳴子踊りが披露されるのだという。

 仙台から車で一時間余り。夕暮れに到着した海べりの会場は、欧風の石張りのしゃれた公園だった。劇仕立てのステージのクライマックスに、赤と黒の衣装の踊り子たちが飛び出した。全員、ダンススタジオのメンバーという。

 「こんなところで…」

 象徴的な光景だった。南国土佐で生まれたよさこいがはるばる東北の地に伝わり、こうして根付き始めている。夜の海辺に響く鳴子はいつもと変わらずにぎやかだったが、高知からの旅人には少し感傷的に聞こえた。

                                 (社会部取材班)

 【写真】東北で復元された遣欧使節船の進水5周年イベントで披露された鳴子踊り。よさこいは東北に根付き始めている(宮城県石巻市)


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