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灼 ―よさこい進化論―
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第1部 鳴子文化圏をゆく
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乱舞の夜仲間と泣いた 静岡県沼津市(下)

 本場高知でよさこい祭りを見て戻った沼津ワールドダンスフェスタの運営部会長、原田治行さん(47)の動きは早かった。イベントは十一月。時間がなかった。

 「フェスでやる日本の踊りはよさこいにする。決めたよ。協力して」

 部会のメンバー、商店街の仲間、地域の友人…。とにかく会う人ごとにそう言っては「よさこい」がどういうものか、「鳴子」がどんなものなのかを説明し、チームづくりに奔走した。

 地元で社交ダンスを教えていた女性を口説いて八月末に再び高知に飛び、基本の踊りを学ぶ。その女性を講師に何度も踊りの講習を開いた。最初、チームは三つしかなかったが、「原田がそこまで熱心なら」という友人らの協力で、その数は徐々に増えた。

 協賛金集め、道路の通行規制、パンフレット作り…。やるべきことは山のようにあったが、運営部会はフル回転。沼津市内十の商店街が初めて一つになって仕事をこなした。

 迎えた祭り当日。各国の踊りを含めた約三十チーム中、八チームが鳴子踊りで市内四カ所の競演場に出陣。独自にアレンジした音が響く商店街は数千人の人込みになり、市民は初めての「よさこい」に酔いしれた。原田さんに祭りの「原点」を教えた東京土佐寮チーム、それに旭食品チームもゲスト出演していた。

 「この辺にスピーカー置いてさ。あの道なんか、人が動けないぐれえでよ」

 会場になった市街地を歩きながら、原田さんは熱気を思い出していた。

 見るからに人を引きつけるタイプ。だから、最初に会った時から、日ごろから商店街で中心的に動いている人だろう、と思っていたが、取材の夜、居酒屋に汗だくで駆けつけた二年後輩の“栄ちゃん”は、口をとんがらして言った。

 「違うよ。原田さんがこの街で目立つようになったのは最近。よさこいやるって言い出してからっすよ」

 昼間会った別の商店街仲間も、似たようなことを言っていた。

 一つのエピソードを聞いた。原田さんが沼津商高のラグビー部にいたころの話だ。部は強豪で、昔は全国大会にもよく出たが、原田さんが入部する数年前から低迷。全国大会に行くには長野県代表に勝つ必要があったが、それができなくなっていた。

 三年の時、原田さんはキャプテンだった。しかし全国はおろか県内準決勝で敗退。屈辱だった。涙も出なかったという。以来、長い間原田さんはOB会にも出なかった。「仲間」というものから遠ざかっていた。

 商店街活動でも苦い経験がある。以前、空き店舗を活用した夏のイベントの責任者をやった。お化け屋敷を呼び物に特産品を販売する趣向だったが、これが失敗。大きな赤字が出た。累積欠損は毎月の商店街の理事会で報告された。つらかった。人の先頭に立つ。いい思い出はなかった。

     

 市内の狩野川の岸辺で行われたダンスフェスのフィナーレ。原田さんは夜のスポットライトの中で自分がどうあいさつしたか、よく覚えていない。

 「みんなでもう一度踊ろう! 確かそう言ったけど、何が何だか…」

 夜のとばりの中で百人を超える人が乱舞した。原田さんは泣いた。仲間たちも泣いていた。

 「沼津、東京に近いし、いつでも帰れるからってみんな夏祭りにも帰らねえんだけど。おれ、人が帰る街っていうかさあ、人が集まる街にしたいんだ。よさこいやりながらさ」

 元ラガーマンはそう言って、また焼酎(しょうちゅう)をあおった。

                                 (社会部取材班)


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