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議論は迷走していた。しかも、ちょっと気まずい雰囲気だった。五月二十六日夜。埼玉県朝霞市役所の会議室。「朝霞市民まつり実行委員会」の席上、地元警察署長が祭りの終了時刻を繰り上げるよう要望したのが発端だ。
「青少年の不良行為を助長する。午後九時には終わってほしい。地方車の騒音もありますので」
出席した三十人ほどのメンバーは、うーん、と顔をうつむけた。PTAや町内会、社会福祉協議会など地域の主立った組織の人たちである。
「昨今の少年犯罪」という言葉に困惑していた。ボランティアで自主警備する人の手勢の問題もあった。しかし時間を短縮すると、踊り子の晴れ舞台の時間を削らざるを得ない。どうする…。何人かが発言したが妙案はない。
突然、中央に座っていた渡辺利昭副委員長(埼玉県議)が言い放った。
「あのな、高知でも北海道でも祭りの日は問題行動なんて、まずねえんだよ。祭りで疲れて、悪いことなんかしねえ。おらあ、そう聞いてるぜ」
べらんめえ調の大声だった。高知からの記者が傍聴しているのを意識していたかは分からない。ただ、この発言で論議は決着した。署長は提案を取り下げた。
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朝霞市に入ったのはその日の午後だった。四年前から地元の夏祭りに鳴子踊りを取り入れている。昨年は三十八チーム七千六百人が踊った。最近、関東では千葉県松戸市、神奈川県座間市などに「鳴子文化圏」が広がっているが、それらの先輩格である。
朝霞市が鳴子踊りを取り入れたのは、松下貞夫助役(62)が幡多郡大方町出身というのが大きな理由。動機は「朝霞で『ふるさと』を創出したい」だった。
東京・池袋から電車で約二十分。駅前商店街以外はほとんど宅地の典型的なベッドタウンだ。人口約十一万六千人の約八割は地方出身者。多くは東京で働き、朝霞に寝に帰る。極端に言えば、そういう生活だ。
朝霞でよさこい―。助役の古里の祭りを持ち込むに当たっては、かなり反発もあったのではと思ったが、違った。市内二十七団体で構成し、これまで市民祭りを運営してきた「コミュニティ協議会」は、住民の「つながり」を求めていたのである。
市内の町内会組織率は約六割。花火目当てで祭りに来る人は多いが、何かを一緒にやる、という祭りではなかった。盆踊りの参加者もまばら。当時、札幌のYOSAKOIソーランが軌道に乗り始めていた、というのも好材料だった。「やろう」。話は早かった。
立ち上げの時、踊りの指導をした山本史子さん(44)=高知市出身=は「体育館に代表が集まった最初の日からすごい熱気で」。町内会や学生チーム、九州出身者の「火の国会」など、最初の年から二十三チームが出場した。
主会場は米軍キャンプ跡を貫く幅八メートル、長さ約七百メートルの直線道路。ストリートとしては高知より恵まれている。第一回から出場している若者中心のチーム「遊和会」の岡野克裕代表(28)は「夏までに三十回は練習する。祭りが終わると脱力感でいっぱいだけど、またすぐ来年どうしよかって。原点忘れないようによさこい節と朝霞音頭は曲に入れてるんです。毎年、知らない人もチームに入ってくるし、もう楽しいとしか言いようないっス」。
古里は朝霞。祭りはよさこい―。もう一世代、二世代巡ると、そんな市民であふれるはずだ。
(社会部取材班)
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