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茫々(ぼうぼう)とした原野の景色につい気を取られ、うっかりして一つ手前でバスを降りてしまった。今夜の宿は次のバス停だった。あっと思ったが遅い。気付いた時は、バスはもう出発した後だった。
時刻はまだ午後六時半を回ったばかり。しかし北海道・阿寒町役場前の国道は、はや人影がない。さすが北の国である。五月も末というのに日が傾くと息が白くなってきた。次のバスを待とうにもさっきのが最終だ。さて、どうしたものか。
重い荷物を抱えて途方に暮れていると、すぐ先で民家のシャッターががらりと上がり、男性が顔を出した。
「次のバス停? そりゃまだ五キロあるよ。よかったら乗せてってあげますよ。どうぞどうぞ」
渡りに船。ありがたく親切を受け入れ、車中の人になった。ちょうどよかった。地元の人に尋ねてみたかったのだ。よさこい祭りってご存じですか、と。
「ああ『YOSAKOIソーラン』ね。札幌ですごい盛り上がってますよ。阿寒でもちょこっとやってます。『YOSAKOIほろろん祭り』ってね。えっ、もともとは高知の祭り? 札幌じゃないの…。そうなんですか。へえー」
◇
「そうでしょうねえ。高知の人には大変失礼かもしれませんが、北海道ではよさこいイコールYOSAKOIソーランですから。情報も札幌発が圧倒的に多いし…。それによさこいって言われても、最初はほとんどの町民が知らなかったんですよ」
翌日訪ねた阿寒町公民館。申し訳なさそうに頭をかくのは「YOSAKOIほろろん祭り」実行委員長でガソリンスタンド所長の早坂勝則さん(40)と、実行委メンバーの町教委主事、秋葉薫さん(30)である。
阿寒町は道東の中心都市・釧路市に隣接する酪農と観光の町。人口は約六千七百人。国の特別天然記念物タンチョウの越冬地として知られる。その研究のため、町内に阿寒国際ツルセンターができたのが一昨年のこと。「YOSAKOIほろろん祭り」は当初、その開設記念行事として持ち上がった。
「ツルをテーマにしたイベントをと話し合ったんです。で、札幌から帰ってきた若者が提案したのがYOSAKOIソーラン。札幌で盛り上がっててみんな楽しんでるぞと…」
地元には昭和四十年代にできた丹頂鶴音頭というのがあった。かつては町内をパレードするなどにぎわったが、近ごろはすっかり廃れていた。あれを何とかできないか。「よさこい風」にすることで、もう一度命を吹き込めるんじゃないか。
とはいっても、「よさこい」なる祭りなどだれも見たことも聞いたこともない。そこで「YOSAKOIソーラン」のビデオを取り寄せたりして研究を重ねた。見よう見まねでやってみた。
これが、当たった。
◇
南国土佐に四十五回目の「よさこいの夏」が巡ってくる。ひと足先に札幌では七回目の「YOSAKOIソーラン祭り」が繰り広げられ、北の大地が鳴子のリズムにわき立った。
さらに全国に目を移すと、本家高知や札幌に続けと各地でさまざまな「よさこい」が産声を上げている。“鳴子文化圏”は拡大の一途だが、一方で本家の祭りは曲がり角にあるといわれ、さまざまな解決すべき課題もまた多い。
「よさこいの夏」を漢字一文字で表現すると、「灼(しゃく)熱」の「灼」こそふさわしい。赤々と輝き、ものをみな焼き尽くしてさらに燃え広がるイメージ。この祭りの何がこんなにも人を引きつけるのか。連載企画「灼 ―よさこい進化論―」第一部は、そんな疑問を胸に全国鳴子行脚の旅に出た。
(社会部取材班)
【写真】北海道・阿寒町に誕生した「YOSAKOIほろろん祭り」。廃れかけていた地元の丹頂鶴音頭がよみがえった(昨年8月)
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