|
【評】野球の神様は明徳にほほ笑んだ。明徳田辺は同点の八回一死三塁のピンチにスクイズ失敗を誘い三塁走者挟殺で零封。九回、失策絡みの無死満塁も三塁ゴロで一死。浅い左飛で離塁した三塁走者を挟殺し岡豊の猛攻を瀬戸際で食い止め、傾いた流れを引き戻した。打線は序盤こそ長短打で4点をたたき出したが六回以降は沈黙。十二回、四死球と失策での無死満塁から押し出しと適時打で2点をもぎ取り試合を決めた。
岡豊田島は変化球を低めに集め終盤明徳打線をほんろう。打線も15安打と攻めに攻め最後まで好機をつくるもあと1点が遠かった。(青木)
明徳 絶体絶命しのぐ
同点の九回裏、無死満塁。明徳もここまでか。だれもがそう思っただろう。
しかし、明徳は踏みとどまった。主将森岡はマウンドに集まったナインに、「おれらはどこにも負けない練習をやってきた。開き直って思い切りやろう」とげきを飛ばす。田辺と筧は「最後の夏。悔いのないよう、真っすぐで押そう」と開き直る。後続打者を直球一本で詰まらせ、ピンチを切り抜けた。冬場の走り込みで速さを増した田辺の直球が、土壇場で生きた。
八回裏一死三塁のスクイズを三振ゲッツーに仕留めたのにも、裏付けがある。三塁走者がスタートを切ったのを見た田辺は、外側にスライダーの握りのままで外した。筧は同時に腰を浮かし、外に逃げる球をつかまえた。「カーブならワンバウンド、スライダーなら横に外して、バットに当てさせない」。練習試合で何度も試し、前夜も2人で確認し合ったプレーだった。
明徳らしからぬ試合だった。五回無死三塁を逃してから、流れは岡豊。明徳は十一回までヒットが一本も出ない。田辺は変化球が決まらず15安打も浴びる。七回には内野守備のミスで同点に追い付かれる。186球目の三振で試合を終わらせた田辺の、「初めて」というガッツポーズが苦しさを表していた。
大会前から馬淵監督は「一度はしんどい試合がある」と話していたが、しんどいなんてもんじゃない。「3度くらい、死にかけた」と同監督。だが、苦しみ抜いた試合はナインの自信につながる。「吹っ切れた。もう気持ちだけは負けない」と田辺。一度“死んだ”人間は強いかもしれない。(早崎)
遠かった「1点」
岡豊のサヨナラ勝ちは目前だった。同点で迎えた九回裏、先頭の楠本がフェンス直撃の二塁打。続く土居智は敬遠。一、二塁として3番田島の送りバントを筧がポロリ。無死満塁で4番。スタンドがどよめく。流れはできているように見えた。だが山中監督には迷いがあった。
八回裏一死三塁の場面。スクイズを失敗した。明徳バッテリーに読まれ、一瞬にしてチェンジ。
4番の金子は明徳田辺から2安打。勝負させた。三塁ゴロで本塁封殺。「スクイズさせてたらもっと違う結果だったかも」と山中監督。だが、まだ一死。チャンスは続く。五番大谷智にも、そのまま打たせた。左翼へ飛球が上がった。さい配が当たったかと思われた。タッチアップした楠本が一瞬足を止めた。勢いよく飛び出したが、ランナーコーチが「止まれ」と手を広げていた。三本間で挟まれて併殺。「走塁は全部まかせてあった。コーチの判断に悔いはない」。1点は遠かった。
延長戦に入ったが、もう田島は限界だった。握力はなくなり、肩は既にパンク状態だった。十二回、押し出しの四球を出したところで代えた。田島は「176球も試合で投げたのは初めて。スライダーはよかったと思うけど途中から球威が落ちて…」とうなだれたが、山中監督は「どう料理するかは、僕の手の中にあった。全部、僕の作戦ミスです」。
もし九回、楠本の打球があと数十センチ高かったら、あと一本がでていたら…。惜しい場面は多かったが、山中監督は「負けるぐらいなら、いい試合なんかしない方がいい」。負けはしたが、王者明徳を十分に脅かした。「こいつらともう一回やり直しです」。次の対戦でどんな試合を見せてくれるのか、楽しみになる一言だった。(宇田)
|