全体の夜間練習が終わっても、グラウンドで打ち込みを続ける選手がいる。「肌に染みる寒さ」のなか、「5時間以上の練習後」だが、そんなことに構っていられない。“練習の虫”たちは、技術を磨く努力を惜しまない。
一塁手久保田と遊撃手松原もティーバッティング組だ。真っ暗なグラウンドを照らすライトの下、交代で納得がいくまで打ち続ける。松原は「うまくできなかったプレーは、その日のうちに直しときたいんです」。
松原は昨年のセンバツ、横浜戦で“この上なく痛いミス”を犯した。1点リードの八回二死一、三塁で平凡な飛球をグラブの土手に当てこぼした。大事にいき過ぎた。公式記録は内野安打だが、関係ない。「あのころは甲子園でプレーするのが目標だった。でもあのミスから甲子園で“勝てる”プレーをすることが目標になったんです」
気持ちが変わった。「やろう」と思いついた練習を紙に書く。それを必ず、やる。そして書いた紙を捨てる。「1人ひとりが、1つ1つをしっかりやったら、どのチームとやっても引けを取らない試合ができる。今の練習が大事」
巧打チーム一の2番打者、松原のプレーを支えるのは、そんな意識の高さだろう。「プロ、社会人…。いつまでも野球に携わりたいです。大好きですから」
相棒の久保田はどうか。「野球好き」では、松原の上を行くのではないか。「久保田さんは24時間、野球のことを考えてますよ」と言うのは同部屋の1年神谷。部屋の机の上には野球に関する本がずらり。引き出しの中は、びっしりと書き込まれた練習ノートが20冊ほど重なっている。
練習内容、成果、感想…、中学時代から毎日丁寧に書き続ける日記だ。久保田の野球への思いがびっしり詰まっている。「初めは周りから『書け』って言われたんです。けれど、今は習慣。やめられないんですよ」
「練習が終わってもほとんど部屋にいない」と神谷があきれる。時間を見つけて、スイングだ。300、400、500…。青雲寮のロビーで、庭で、振り続ける。「1日でも無駄な日をつくりたくないんです。『やらんかったなあ』って感じたら嫌な気持ちになる」
久保田の腕は丸太のように太い。チーム一威圧感のある体は、たゆまぬ練習の中から生まれた。「実はまだ甲子園でヒット打ってないんです。今度は絶対打ちたい。でもそう思ったら打てなくなる。だからやることをやる。結果はついてくると思うんです」。
明徳球児たちの野球に対する思いは熱い。野球に向き合う姿勢は、取材する側される側を越え、感銘を覚える。馬淵監督は「こんな山奥の、学校から一歩も出られない所へ来るんやからな。皆、志が高いんよ」。
「壁」「挫折」―、それぞれが、それぞれの抱える「何か」を乗り越えようとしている。センバツ“満開”を信じて、きょうもあしたも頑張る。ナイン71人全員で…。