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2004年4月4日(日)<朝刊>
ミス痛恨 済美に屈す
引き揚げて来た明徳ナインは、ベンチ裏でぼう然と立ちつくした。目を真っ赤にした田辺は言葉をしぼり出すのがやっと。森岡も泣き崩れた。「悔しくてたまらない」と梅田。久保田は「(松下)建太に悪かった」。済美に雪辱できなかった悔しさで声は震えた。
六回、0―6から一気に同点にした。相手は2年生バッテリー。こちらは1年から甲子園を知っている選手だっている。試合の流れは完全にこちらを向いたはずだった。しかし、その後、再び流れを相手に渡してしまう。
七回無死一塁の走者をバントで二塁に送れない。一死から梅田が何とか走者を進めたが、無得点。
悪夢は八回。失策、四球の二死一、二塁で打席は9番。当たっていない。ここで、済美ベンチは重盗を仕掛けてきた。タイミングはアウト。しかし、慌てた捕手田辺の三塁送球が左にそれた。レフトのバックアップも遅れ、やらずもがなの決勝点を許した。
そして九回、同点ランナーを出したが、またも送りバント失敗。最後は、最も期待された森岡がエンドランサインで見逃し三振。スタートを切った走者も二塁タッチアウト。併殺のあっけなさすぎる幕切れだった。バント失敗も見逃し三振も真ん中の変化球だったが、「緊張しすぎて、反応できなかった」と2人。まだ試合は終わっていなかったのに、“弱さ”が勝利の女神にそっぽを向かせたような感じがした。
「技術もそうだが、精神的に弱い。済美を意識しすぎた。試合の流れが来てから硬くなっていては、勝つところまでいけない」。馬淵監督は表情をこわばらせた。
結局、“らしさ”が見られたのは六回の攻撃だけだった。相手ではなく、「絶対に勝つ。いや勝たねばならない」プレッシャーとの戦いに敗れた試合ではなかったか。
目をはらした主将田辺は「すべて自分のミス。夏はミスの出ない強いチームをつくります」。最後の声を振り絞って話した。そうだ。まだ夏があるじゃないか。まだまだ強くなれるだけのことはしてきたのだから。(西村)
【写真=中日新聞社提供】【済美―明徳義塾】8回表済美2死一、二塁、二塁走者野間の三盗が捕手田辺の悪送球を誘い、勝ち越し点を挙げる。三塁手久保田
打線つないで一挙6点
6点を追う六回裏無死、先頭の森岡が美しいセンター返しで突破口を開いた。打席に向かう2番松原の後ろ、ダッグアウトでは馬淵監督の高笑いが響いた。
「おまえら、四国大会の借り返すゆうて、口だけやったなあー」。出番を待つ選手たちは、6点のビハインドのことをすっかり忘れて、顔を見合わせ大笑い。
「よし、ここからやぞ。つないでいけよ」。その後、六回裏のスコアボードに、済美のそれまでの得点と同じ「6」の数字が書き込まれた。
言うまでもなく、済美は昨秋の四国大会準決勝で7点リードから大逆転負けを喫した相手。先攻、後攻が逆になり、舞台が「鳴門」から「甲子園」に変わっての再戦で見せた猛反撃。結果的に涙をのんだが、「お返しはできた」と胸を張って言えるのではないか。
五回まで内野安打1本だけの音なしだった。六回は「とにかく後ろにつなげろ」。中前打の森岡を一塁に置き、ベンチの大笑いを背に打席に入った松原は「自分が長打を打っても1点しか取れない」。上から球をたたくスイングで三塁強襲安打。一、二塁、夢中でバットを振り切った梅田の打球はフラフラッと上がって、レフト前にポトリ落ちる幸運な二塁打。これでまず1点。続く4番久保田は右中間を深々と破る2点三塁打だが、「つないでいけば何とかなるから」。長打への“色気”はなかった。鶴川、野村、そして6点目となる内野ゴロの代打松下和も「絶対につないでやる」だった。
全員が、ビッグイニングをつくる鉄則を胸に打席に入り、忠実にそれを実行した。「いやあ、やっぱり明徳強いよ」。スタンドのあちこちからそんな声が聞こえる。六回裏の明徳は、その瞬間、甲子園に来たほかの31校のどのチームよりも強かった。
4点目となる左中間二塁打を放った鶴川に、済美のセカンド野間が声を掛けた。「四国大会の逆じゃん?」
「どうだ、強いだろ」とでも言いたげに、ベースの上で背番号1が不敵な笑みを浮かべた。(井上)
【写真=中日新聞社提供】四回以降、済美を1安打に抑え、反撃を呼び込んだ明徳2番手松下建の投球
「思い切り投げられた」 リリーフ松下建 成長アピール
目を見張った。エースの早すぎる降板を受けた右横手の松下建だ。4点を失ったが、失策絡みで自責点は1。「上級生にマウンドを譲ってもらった。必死で投げるしかない」と松下建。「僕が打たれても建太がいる」と話した鶴川の気持ちに見事応えた。
前日の137球の疲れが見えた先発鶴川が崩れた。松下建は初回からブルペンに走った。「3点とられたらスイッチする」と馬淵監督。いつでも投げれる態勢を整えていた。
1回戦の九回、1イニングしか出番がなかった。「投げたくて投げたくて仕方ない」気持ちを必死に制御してきたという。早い回での交代にも、ピンチを迎えたマウンドでも、動じなかった。
いきなり3点を失った。しかし、3番高橋、4番鵜久森の安打は打ち取った当たり。失策が絡む不運もあった。甘かったのは7番田坂へのストレート1球だけだった。
気持ちを切り替えた四回以降は切れのいい直球、変化球を散らし、「ほとんどのボールが思ったところに行きました」。強打の済美を九回の1安打に抑えた。馬淵監督が「ひと冬越えてコントロールが格段に良くなった」と言うように、荒れ球、逆球続きの秋からの成長ぶりを示した。
「負けたのは悔しいけど、思い切り投げられた。(自分の投球には)満足してます。夏は背番号1を取るつもりで、もっとスケールの大きな投手になりたい」(西村)
疲れはなかったが…
1、2回戦、無四球投球のエース鶴川が一回だけで3四球。高めに抜けたり、シュート回転したりと、ボールは捕手のミットから逃げ回っての二回降板だった。
前日の準々決勝で137球。報道陣からの「疲れはなかったのか?」の問いに、きっぱり「ありません」。しかし「手先が固まったというか、腕が縮こまってしまって…」。本調子でないことは自覚していた様子。「相手が済美というのも、かなり意識してしまった」と続けた。
不完全燃焼の投球で終わった。しかし、涙を見せずしっかりインタビューに答える姿は「明徳のエース」。再び、夏に備えてくれるはずだ。
やられるかと思った
済美のエース福井は、集中打を浴びた六回以外は1安打に抑えた。六回は昨秋の四国大会で明徳義塾相手に7点差をひっくり返した試合が頭をよぎり「逆をやられるかと思った」と苦笑い。「同点になって、今から試合だという気持ちで思い切りいった」と七回以降の反撃を断った。
前日は8回で136球、この日は153球を投げ完投。途中で代えてほしかった、と本音が思わず漏れた右腕も「あしたは最後まで投げたい」と決勝に向け意気込んだ。
イチかバチかの足攻め 済美8回決勝点
ベテラン監督の、イチかバチかの策が、ずしりと重い決勝点となった。
6点のリードを追いつかれ、済美にとっては重苦しい展開になりかけていた。そんな八回、失策から二死一、二塁のチャンスがきた。打席の福井がカウント2―2後の5球目に、上甲監督が動く。二塁走者がスタートを切ると、慌てた捕手が三塁へ低投。球が外野に達する間に、「サインが出たのでやってやろうと思った。無我夢中だった」という野間が、頭から本塁を陥れた。
「あれは打ってもいい、走ってもいいというサイン。福井はタイミングが合っていなかったので、転がしてくれれば、ひょっとしたら何かが起きるのではと…」。形は違ったが、まんまと当たった奇襲に、上甲監督は会心の笑みを浮かべた。
因縁の対戦だった。昨秋の四国大会では、明徳義塾に0―7の劣勢から逆転勝ちしている。その試合とは逆の展開になりそうな嫌な思いもナインの頭をよぎったが、悪い流れを押し返した。
前日は、優勝候補の本命だった東北に劇的な逆転サヨナラ勝ち。そしてこの日は、2002年4月の創部以来「練習試合などで世話になり、目標にしてきたチーム。力ではまだまだうちはかなわない」(上甲監督)と話す相手をけ落とした。
16年前の春、初出場の宇和島東を率いて栄冠を手にしている勝負師は、2度目の初陣優勝こそ明徳義塾への「恩返し」だと心に誓っている。(春日)
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