
こけらずし=右上=など土佐のごちそうを代表するすしが勢ぞろいした |
土佐の地にあって、かつて何よりのごちそうは「米」であった。それだから米が主役となる料理「すし」は、そのまま「ごちそう」を指すことにもなった、という。3年間にわたって月1回連載してきた本欄の最終回に選んだ料理は「すし」だ。県内の多彩な「ごちそう」の数々を紹介してシリーズを締める。
調理のクライマックスシーンだろう。巨大なすし型の木枠を押し抜くと、「こけらずし」がその威容を現した。これでもかというほどの酢飯が専用の木型に詰め込まれた。その重量感は圧巻だ。
「こけら」とは木片の意。すしの姿が、木を重ねて作る「こけら葺(ぶ)き屋根」にも似ていることから名付けられたといわれる。喜びを重ねるということにも通じて、祝いの料理としても振る舞われる。東洋町など室戸地方の代表的な郷土料理だ。

県内各地の特色がにじみでたすしを調理する土佐伝統食研究会のメンバー(高知市南久万のRKC調理師学校) |
調理に当たった土佐伝統食研究会のメンバーが「何年ぶりに使うろうか」という特製のすし型を持参してきた。
型に酢飯を敷き、その上にニンジンとその葉、シイタケ、卵などで文様を描くように置いていく。その上に板を置いて、また酢飯を重ねる。それを繰り返していく。
今の感覚からは、ぜいたくな食材を使っているわけではない。それなのに「ごちそう感」はあふれ、祝祭的な雰囲気が漂う。その存在感だけで満腹が保障されているような気持ちにもなる。
「こけらずし」ばかりでなく、あちらこちらでにぎやかに調理が進んでいる。
大豊町で栽培されている「銀ぶろう」と呼ばれる豆を使ったすし。安芸地方では特産の金時豆をちらしずしに使う。幡多地方の「つわずし」はツワブキの葉で酢飯の上下が包まれている。
幡多で「お巻き」との愛称がある卵の巻きずしは、中に具材の「芯(しん)」を入れないのが正統だそうだ。その見た目も、白い酢飯と鮮やかな黄色の卵焼きのコントラストがシンプルで美しい。なるほど余計な具材がないだけに、酢飯そのものと卵焼きの味わいが引き立つ。これなども米が主役として遇されている料理だ。

おしずしに欠かせない専用のすし型 |
豪華さ演出する工夫も
同じく県西部の「黒こぶずし」も、芯を入れずに甘く煮た昆布を巻くだけのものである。
そうした具材を絞ったすしの酢飯には、こくがより求められる。県内には室戸地方で「酢にごし」、県西部で「酢ごろし」と呼ばれる面白い表現がある。焼くなどした魚の身を酢に浸したり、混ぜ込んだりすることで、その酢飯のこくをまろやかに増そうという方法だ。
それにしても土佐伝統食研究会のメンバーたちが一同にそろった調理現場は、かまびすしい。そこには調理の実践による情報の伝達と共有がある。このにぎやかさは、伝統食を後世に引き継いでいくためのものだ。
食卓には、さらにコンニャクずし、かいさまずし、板昆布ずしなど高知ならではのすしが並んだ。そんな壮観な食卓を前にして、古参のメンバーが嘆いた。
「以前、伝統食を学ぶために取材した人の多くがすでに亡くなってしまった」
本欄「土佐がうまい―次世代に伝える食文化―」では、県内各地のさまざまな伝統食を紹介してきた。そのごく一部を紙面という記録にとどめることはできた。しかし、豊かな食材を供給する農漁業と調理の実践、そして「うまい」と食べ続ける人がいなくては、あっという間に廃れてしまうことだろう。
(協力・土佐伝統食研究会)=おわり
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