
手前が「皿鉢の組みもの」。13種類の料理を組み込んだ。奥は「蒸し鯛」と口直しの「ぜんざい」 |
田んぼに黄金色の稲穂が輝くころ。かつては正月と並ぶ祝い事だった「神祭」の季節だ。収穫を祝って氏神様に感謝する。「お客」を開き、はしを伸ばすのは土佐ならではの皿鉢料理。さまざまな味を楽しみながら、ゆっくり酒を飲もう―。高知平野の農村地帯、吾川郡春野町の「神祭の皿鉢」のうち、「組みもの」を作っていただいた。
今回、腕を振るってくれるのは、春野町の伝統料理を伝えていこうと発足した「あたらしやの会」の皆さん。
松田環会長(65)=弘岡上=をはじめ、年長者で腕立ちの石田地津さん(74)=弘岡上=、岡崎真由美さん(61)=秋山=ら5人だ。
組みものは品数が多いため、数日前から準備に掛かってくれていた。既に、高野豆腐で魚のすり身を挟んだ「ひっつけ」や、昆布巻きなどは仕上がっている。
残りの料理を作ってもらいながら、話を聞いた。
神祭のお客は、氏神様単位の地区で、その年の「お当家」に選ばれた家で行う。
神事が終わると、いよいよお楽しみの始まり。松田会長の家も20年ほど前、お当家に選ばれて「一生に一度の大お客をやりました」。

神祭の皿鉢を作ってくれた春野町の「あたらしやの会」の皆さん(同町西分) |
準備は各地区の「肝いりさん」がやるのがしきたりだ。
「それに昔は神祭、婚礼となったら、男の料理人さんが包丁一式を抱えて来ましたよ。戸板を料理台代わりにして、魚をさばいたりね」
各地区の神祭は日がずらしてあり、人々は「お客」を順繰りに回って楽しんだ。
「最近はあんまり、神祭のお客もやらんなりましたね。家に皿鉢や酒道具もそろってますけどねえ…」
組みものの13種類の料理が仕上がった。「奇数がえい」とされているそうだ。
「さあ、組み込もうか」
松田会長の声で、大きな皿鉢に盛り付けが始まった。
土佐の祝い事に欠かせない「すし」。巻きずしはのり、薄焼き卵で巻いた2種類。そして、大きないなりずし。
サバの姿ずしは切って、頭と尾の部分を立てて盛り付ける。土佐人なら、この段階で想像してしまう。「残」で持ち帰ったサバずしを翌日、焼いて食べる味を…。
みんな考えることは同じで、石田さんが笑いながら「サバずしの頭、誰が取っていく?」と冗談を飛ばす。
ほかにもイカとネギの酢あえ、酢ごぼう、芋のてんぷら、色付きようかん、柿…。
「蒸し鯛(だい)」と口直しの「ぜんざい」も並んだ。
「これに生(刺し身)が並んだら、お客ができるねえ」
みんなでうなずいた。
皿鉢料理は「お客」を楽しむための味だろう。
長くお酒を飲んでも、お客を飽きさせない多種多様の味。飲んでは食べ、一休みしては皿鉢にはしを伸ばし…。
老若男女がわいわいと語らう。男たちは談論風発の果てに大酔いで畳に倒れ込んだり。それでも返杯は続く…。
皿鉢料理は、土佐人の“ハレ”の記憶とともにある。(協力・土佐伝統食研究会)
「虎巻き」と「あたらしや」

「あたらしや」 |
春野の皿鉢には、独特の甘い菓子が入る。それが「虎巻き」と「あたらしや」だ。
「虎巻き」は、カステラ状の皮であんこを巻いた菓子。皮に虎模様の焼き目が付いているので、この名が付いた。
まずは卵と砂糖、アンモニア、小麦粉を混ぜて生地を作る。ここからが面白い。
見開きの新聞紙を八つ切りにして温めた鉄板に載せる。今回は現代風に、ざら紙とホットプレートを使った。紙の上に生地を薄く延ばして焼き、上にも紙をかぶせる。ひっくり返して両面焼けたら、はけで水を付ける。
紙をはがすと…。不思議なことに虎模様が。作ってくれた野村郁代さん(58)=西畑=も「ひっとり虎になる。何でやろうねえ」。これを寒天入りのあんこに巻いて落ち着かせ、切っていただく。
「あたらしや」はもちを専用の木型の上で延ばして模様を付け、あんこに巻いたもの。もともとは、杯台の彫刻にもちを押しつけて模様を取っていたそうだ。
すぐ固くなるので、名前には「できたてを食べて」との意味がこめられている。
器用に「あたらしや」を作っていく近藤泰子さん(62)=芳原=は、家に伝わる木型を持参してくれた。明治時代に宮大工が作った品で、中心に花模様があって放射状に線が切り込んである。
この木型を水でぬらし、まずは花模様の部分に小さく丸めた色粉のもちを載せる。
慶事は赤、黄、緑の3色、弔事は赤を除いた2色。
その上から白いもちを延ばして模様を付け、一口大に細くまるめたあんこに巻く。
土佐伝統食研究会の松崎淳子さんは「貴重品だった砂糖をふんだんに使う伝統食。この地域が豊かな農村で、沿岸部で砂糖栽培が盛んだった土地柄があってこそ」と話す。
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