
左下の「押しずしと田舎ずし」から、時計回りに「漬物」「煮しめ」「ちらしずし」「酢みそあえ」「白あえ」 |
今回の食材は「Chayote」。手元の英和辞書を引くと、熱帯アメリカ産ウリ科の蔓(つる)植物とある。
横文字を、そのまま読めば、「チャヨテ」。そう、「チャーテ」である。「ハヤトウリ」とも呼ばれる。
土佐伝統食研究会の松崎淳子代表によれば、1916年、鹿児島の島津養鶏場に導入されたことから、「ハヤトウリ」の名が付いたとか。一つの蔓に100個ほどの実を付ける。物部村では昔、少々誇張も入ってか、「センナリ」とも呼ばれていたという。
訪ねたのは同村大栃の森本益志さん(70)宅。国道から永瀬ダムへ道を少し降りると、自宅の周りには、彼岸花が赤い花を付け、柿の実も色づき始めていた。周囲にはのどかな田園風景が広がる。遠くから稲刈り機の音が聞こえる。
「まあいらっしゃい」―。満面の笑みを浮かべた森本さんが迎えてくれた。この日は、村役場に勤める孫の山下のぞみさん(29)と、同村岡ノ内の中川幸子さん(63)とで料理を作ってくれるという。
のぞみさんは一児の母。「チャーテですか。ベーコンといためたり、卵とじにしたりして、よく食べます。おいしいですよ。母の手伝いとかしたわけではないけれど、作り方は、何となく覚えましたね」。その食文化は自然のうちに受け継がれている。

料理を作ってくれた森本さん(中央)と孫ののぞみさん(左)、中川さん |
さて、このチャーテ、10月ごろからが旬。ところが、ことしは日照り続きでなかなか実がならず、やっとできた小さな実が台風14号でやられてしまったという。取材日までにそろうかどうかと気をもんだが、どうにかこうにか間に合った。
メニューは、チャーテのすし(押しずしと田舎ずし)▽ちらしずし▽白あえ▽煮しめ▽酢みそあえ▽漬物―の6品。
すしは何といっても酢めしから。食酢のほか、ユズの一大産地であるだけあってゆず酢もたっぷりと使う。塩と砂糖は少なめだ=メモ参照。
「高知は酢をよく使う県。『酢が利いちゅう』って褒めるでしょう。昭和60年ごろは酢の購入量は全国1位だったんですよ」と松崎代表。
「保健所が食中毒が起こって検査に行くでしょ。皿鉢でも酢のところは、サルモネラも避けて通っているですって。冷蔵庫もないような時代、やっぱり生活の知恵ですよ」
森本さん宅では、麦や大豆も作れば、野菜はもちろん、みそやしょうゆも自給自足。しょうゆも濃い口、薄口の2種類がちゃんとある。これだけ徹底した自給自足の家は、もう物部村でも珍しい存在だという。

何とか間に合ったチャーテ。白と緑がある。緑の色素はカロテン
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だしに使うアジジャコも自家製。アジは自分で釣って来るという。「浦戸や(高知)新港にも行きますよ。2枚、3枚におろしたり、丸ごと干したりして、使います」と森本さん。
料理は実に手際よい。酢めしをいなりずしのように袋詰めにする、俗に言う田舎ずし。甘酢に半日ほど浸したチャーテに切れ目を入れて酢めしを詰めていく。押しずしは塩漬けしたチャーテを2日ほど塩抜き。甘酢に浸して薄切りにして棒状の酢めしの上に並べていく。ミョウガやセイソウも彩りに添える。
煮しめは皮付きのチャーテを使うのが特徴。ニンジン、シイタケなどを自家製のアジジャコのだしで煮る。酢みそあえには季節の柿が入っている。漬物は酒かす漬け、しょうゆの実漬け、みそ漬けの3品。こちらはにおいをかぐだけで一杯やりたくなる。
さてさて、あっという間に出来上がったチャーテ尽くしのお料理を頂く。
漬物はもちろん、酢みそあえも白あえも、シャキシャキとした歯応えが何ともたまらない。研究会のメンバーも「チャーテはやっぱり食感やねえ」「それと透明感があるから、清涼感かなあ」。ちらしずしに盛られたチャーテの千切りも美しい。
煮しめにすれば、ほっこりとした食感が口の中で広がる。皮付きのまま煮るため、煮崩れもしない。
ちらしずしや白あえなどに振り掛けられたのはエゴマ。食べるとそれがぷつぷつとはじけ、何ともいえない香ばしさが口の中でぱーっと広がっていく。
もともとは、おすしの魚の代用として使われたチャーテ。20年ほど前から、その料理のバリエーションはぐんと広がったが、その素朴な味わいは山村の生活、人々の生き方そのものなのだろう。
(協力・土佐伝統食研究会)
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【メモ】
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酢めし 調味料の分量は、県内でも地域によって随分と違う。森本家の場合は、コメ1升に対して、食酢50cc、ゆず酢180cc。塩は15グラム、砂糖25グラムと少なめ。これにショウガのみじん切りを50グラム加える。食酢を使わず、ゆず酢だけの地域もあり、塩や砂糖の分量も地域それぞれだ。
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