
手前右から時計回りに、刺し身、釜揚げ、ほおかぶり、煮付け、塩干し、酢の物、塩焼きの計7品。生でよし、煮てよし、焼いてよし―キビナゴ料理はバリエーションに富んでいる(写真はいずれも宿毛市片島のすくも湾漁協) |
新鮮キビナゴいかが? ゆうパック発送始まる―。毎年5月中下旬ごろになると、新聞紙面やテレビのニュースを飾るのがこの話題。宿毛市漁協(現・すくも湾漁協)と宿毛郵便局がタイアップして昭和62年から始まったこのゆうパック販売も、すっかり初夏の風物詩となった。
同市の沖の島周辺は全国的に知られたキビナゴの好漁場。片島港は全国有数の水揚げ港で、宿毛湾全体で巻き網漁を中心に年間1500トン前後が漁獲される。年間を通して捕れるが、産卵期を迎えて丸々と肥える4―6月がキビナゴの“旬”といえよう。
今回、取材に協力してくれたのは、すくも湾漁協宿毛女性部(岡崎ちか子部長)の皆さんと県宿毛漁業指導所。刺し身、塩焼き、煮付け、酢の物、塩ゆで(釜揚げ)、塩干し(一日干し)、ほおかぶり(おからずし)の計7品を作ってもらった。
体長10センチほどのキビナゴをさばく際には包丁などは使わず、手開きにするのが基本。親指を器用に使って頭とはらわたを取り、左右の親指でピーッと腹を開き、骨を取る。1匹さばくのにものの数秒。さすがは漁師のおかみさんたち、手際よく次々とさばいていく。「包丁もまな板もいらんけん、キビナゴが一番簡単な。けんど、うちの嫁は手開きをようせんがよ」と笑う。

キビナゴをさばくのに包丁などは使わない。手開きが基本だ |
あいにくこの日は出漁しておらず、ビチビチのとれたて…とはいかなかったが、海水冷却装置付きの船で港まで運ばれ、水揚げ直後に一匹ずつバラバラに凍結された“高鮮度保存”のキビナゴを漁業指導所が用意してくれた。
地元の中型巻き網漁業船団が協業体を組織し、高鮮度・高品質の魚を提供しようと取り組んでいる。キビナゴは“足が早い”といわれるが、この“高鮮度保存”のキビナゴは刺し身で食べても、生のものと区別がつかないほどの鮮度の良さがウリだ。
ずらりと並んだキビナゴ料理の中から、まずは刺し身にはしをつける。コリコリとしたキビナゴの食感とともに、かむほどに甘みが広がる。塩焼きや塩ゆではほんのり塩が効いていてご飯が欲しくなる味。塩焼きは「プッツン焼き」と呼ばれ、焼くとプッツンと音がするところからきているそうだ。

昔ながらのキビナゴ料理作りに協力してくれたすくも湾漁協宿毛女性部の皆さん |
ユニークなネーミングの“ほおかぶり”。酢でしめたキビナゴでおからをくるんだ姿が、頬被(ほおかぶ)りをした人の頭のように見えることから昔からそう呼ばれている。
ショウガと一緒に煮付けたものは、筆者の実家がある宿毛市の祖父母の食卓でもよく見かけた記憶があり、懐かしい味わい。そう言えば、祖父母のところのみそ汁はだしを取ってそのまま具にしたのだろうか、キビナゴが丸ごと入っていたのを思い出す。
幡多郡佐賀町などには漁師の間で伝えられてきた「へら焼き」(キビナゴやメジカなどをすき焼きにしたもの)という食べ方もあるとか。最近では天ぷらや南蛮漬け、にぎりずしにして食されることも多い。
「キビナゴは手間をかけずに食べるのがおいしい。できるだけそのままの味をね…」と岡崎部長ら。生でよし、煮てよし、焼いてよし―。宿毛湾の恵み、キビナゴは料理のバリエーション豊富な“万能選手”だった。
(協力・土佐伝統食研究会)
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メ モ
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ニシン科のキビナゴは本州中部以南、台湾など熱帯海域に分布するイワシの仲間。回遊性があり、普段は透明度の高い外海の表層を群れて泳ぎ、動物性プランクトンを食べる。産卵期になると内湾に入り、付着性の卵を産む。
キビナゴに関する調査研究は少なく、その生態には不明な点も多いが、県水産試験場の調査によると、主な産卵期である4―7月に生まれたキビナゴは翌年の4月には体長7・5センチ以上に成長し、7月ごろまで産卵する。9月には大型の個体が姿を消すことから、7―8月には寿命を迎えているとみられ、寿命は1・5年以下と推測される。
一方、4―7月の産卵期に生まれたキビナゴのうち、成長が早く年末までに体長5―6センチを超えた一部のキビナゴが成熟し、秋口から年末にかけて産卵期を形成。そこで生まれたキビナゴが成長し、翌年4―7月の産卵に参加する―とこれまでのところみられている。
また、別の研究では、表面水温が19―20度以下になると産卵を抑制する要素として働くことも明らかにされている。
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