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土佐がうまい! 5月

 ドロメとチリメンジャコ(赤岡町)  土佐湾はぐくむ命の味

上から右回りにカチリの菜飯、ドロメ汁、ドロメのにんにくぬたかけ、チリメンジャコのおひたし、カチリ入りしょいの実(写真はいずれも赤岡町民会館)
上から右回りにカチリの菜飯、ドロメ汁、ドロメのにんにくぬたかけ、チリメンジャコのおひたし、カチリ入りしょいの実(写真はいずれも赤岡町民会館)
 さまざまな命の揺りかごである土佐湾。日本近海でのイワシ類の主な産卵場になっていることをご存じだろうか。その生まれたての命も、土佐に暮らす私たちは伝統食としてきた。生のイワシ類の稚魚「ドロメ」と、それをゆで上げた「チリメンジャコ」だ。ドロメ漁が漁業の中心で、豪快な「どろめ祭り」で全国に知られる香美郡赤岡町を訪ねた。

 浜風が心地よい赤岡漁港。日の出から沖に出ていたドロメ漁の船は、既に港に戻ってきている。しかし、いつもなら早速ゆで上げられ、野外の「干し場」で白く輝いているはずのチリメンジャコが見当たらない。

 「今日は取材やのに、めった。ここ数日、漁模様が悪くて、生(ドロメ)がない。今年は豊漁というのにねえ…」

 本日の先生役である赤岡町漁協女性部の門田栄子さん(72)、中山清子さん(65)、小松佳代さん(64)が困った顔を見せる。

 かつて、ドロメ漁は網を総出で浜に引き上げる「地引き網」で行われたが、同町では昭和40年ごろには沖合での機船船引き網漁(通称バッチ漁、パッチ漁とも)に取って代わった。2隻の船が袋状の網を引くのだが、その二股に分かれた網の形がバッチ(ズボン下)に似ているので、そんな通称が生まれた。何とも漁師らしい、愉快な発想だ。

 同町では現在、ドロメ漁を通年操業しており、主に東京方面に出荷している。地引き網は観光向けに残るのみだ。

赤岡町漁協女性部の左から門田さん、中山さん、小松さん
赤岡町漁協女性部の左から門田さん、中山さん、小松さん
 頭を抱えていた門田さんら3人の元に、赤岡町漁協の志磨村公夫組合長(45)が「あったで」と飛び込んできた。方々を当たって、ドロメを手に入れてくれたのだ。となれば、浜の女の料理は手早い。

 まず、チリメンジャコをよく干した「カチリ」を空いりし、さらに香ばしさを出す。炊き上げたご飯に、塩少々とゆでて刻んだ大根葉と混ぜ込めば、菜飯の出来上がり。

 「ドロメ汁」は、塩と薄口しょうゆで味付けした汁をぐらぐら沸かしたところに、ドロメを落とす。椀(わん)に切った春菊とシイタケ、すまきを入れて、熱々の汁を注ぐ。

 「先に汁を味付けしておくのがコツ。こうするとドロメがピンと仕上がる」と門田さん。塩分がドロメのタンパク質を固めるからで、理にかなった方法だ。

 ドロメからは小魚ならではの、やさしいだしが出る。地元では取れたドロメを釜ゆでした汁も、煮物などのだしとして利用してきた。「いり汁」と呼ばれ、しょうゆなどで割って保存する。かつては、これも町外へ売りに出掛けた商品だった。

イワシの稚魚の総称が「ドロメ」。春から秋にかけてはカタクチイワシが主体となる
イワシの稚魚の総称が「ドロメ」。春から秋にかけてはカタクチイワシが主体となる
 門田さんがドロメをさっと洗い、酢みそに刻んだニンニク葉をすり込んだ「にんにくぬた」を掛けた。

 作業を見守っていた土佐伝統食研究会の松崎淳子さんが懐かしそうに振り返る。

 「地引き網のころは砂が混じっちょってねえ。ドロメが手に入ったら、冷たい水に放してかき混ぜて、ドロメだけすくい取って食べたもの」

 今は沖合での漁なので砂は混じらない。「朝取ったのが、もう夕方いかん」ほど、鮮度の落ちやすいドロメだが、冷蔵技術の発達で手に入りやすくなった。

 ドロメを口に運ぶ。舌につるりと触り、ぬたとの濃厚なハーモニーが広がる。二杯酢でも、また違うおいしさ。

 思わず、「うん、お酒が欲しいですね」と言ってしまう。それも飲むなら、「どろめ祭り」の大杯で飲まれる同町産の清酒「豊の梅」だろう。

 小松さんが「どうぞ、白ご飯に載せて」とすすめてくれたのが、カチリ入りの「しょいの実」。みじん切りのショウガとカチリ、みりん、しょうゆのもろみをいためたものだ。中山さんがすかさず、「“あて”にもえいよ」とにっこりする。

 カチリとしょうゆが競い合うように香ばしい。「うん、お酒が欲しい」。また、この言葉が口をついて出た。

(協力・土佐伝統食研究会)




【メモ】
 土佐湾のドロメは主にマイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの3種の稚魚。季節によって取れるドロメは変化し、秋から冬にかけてはマイワシとウルメイワシ、春から秋にかけては品質の上で最も優れているカタクチイワシの稚魚が主体となる。

 3種の中でも、マイワシは大規模な資源変動を繰り返すことで知られる。県中央漁業指導所によると、資源の高水準期には広範囲で産卵が行われるが、低水準期の現在は、日本近海でマイワシの稚魚が取れるのは、ほぼ土佐湾のみという状況になっている。

 ウルメイワシも分布は土佐湾が中心で、太平洋側で生まれる稚魚の5割から7割を占めている。

 私たちが食べているドロメとチリメンジャコには、3種の稚魚が入り混じっているのだが、赤岡町漁協の志磨村組合長によれば「3種は顔つきで識別できる」という。

 カタクチイワシは丸顔、ウルメイワシは口先がとがり、マイワシはその中間の顔とのこと。

 ちなみに、県内のドロメ漁獲量は昭和54年の約6200トンをピークに減少傾向にあり、近年は1000トン前後で推移している。


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