土佐がうまい! 15
 アユ(十和村)  年中味わう川の恵み

左奥から焼きアユ、アユそうめん、あめ炊き。手前右からアユずし、うるか、リュキュウの背越し、ナスのうるかいため、アユ飯。さまざまな料理法が伝わっている(いずれも十和村昭和、谷本さん方)  川の音が聞こえる。向こう岸から、鳥の鳴き声が響き渡る。幡多郡十和村昭和。川の幸を生かした伝統料理の作り手、谷本好美さん(66)方は、四万十川を見下ろす小高い場所にある。

 「炊事場で料理をしもって川を見下ろせるがは、この集落でうちだけじゃ」と夫の芳清さん(70)=元同村教育長。

 アユが捕れるのはもちろん、四万十川だけではない。県東部の川の方がうまい、という意見もある。だが、四万十川流域は特に保存食も含めた料理の仕方が豊富だ。

 土佐伝統食研究会の関田和子さん(75)は「海の魚が手に入りにくい山の貴重なたんぱく源として利用したわけですが、とにかく一度に取れる漁がものすごく多かった表れでしょう」と分析する。

 ここでは、9月からが火振り漁の季節。隣近所の数家族総出で当たった。川原で仮眠を取り、夜半を待つ。そして、舟で大人がたいまつを振りはじめると、子供たちは竹ぼうきを持って水際に出動だ。火に驚いて浅瀬に逃げ込むアユをほうきで岸へ上げる。とにかく魚影は濃かった。

 【写真】左奥から焼きアユ、アユそうめん、あめ炊き。手前右からアユずし、うるか、リュキュウの背越し、ナスのうるかいため、アユ飯。さまざまな料理法が伝わっている(いずれも十和村昭和、谷本さん方)

さまざまな保存食に

焼きアユづくり数十年の経験がある好美さん。竹ぐしは亡き父が作ったもので、50年の年季もの。「アユの脂が染みて使いよい」  夜が明け、網からアユを外すと、焼きアユ作りも始まる。庭で地面に炭火を起こし、竹ぐしに刺したアユを周りに立てる。好美さんによると、一斗缶やドラム缶を使って蒸し焼きにすると、水分が体にたまって膨れてしまう。つまり、早く仕上げようとする「邪道」なのだという。

 「まずは強火で脂を出す。脂が落ちてしまうと、火を弱めて遠火でじっくり。均等に焼けるように時々回し、しわが横に入るように指で軽くしごく。体が膨れたり縦向きのしわが入ると、後で煮た時に、身が崩れる。きれいに作るのは一日仕事。付きっきりの番が子供の役目でした」

 【写真左】焼きアユづくり数十年の経験がある好美さん。竹ぐしは亡き父が作ったもので、50年の年季もの。「アユの脂が染みて使いよい」

 山からは秋の気配。涼風に乗って、焼きアユの煙は、高く青い空に吸い込まれていく。季節は川の恵みとともに巡っていた。鳥の声や、川音は今も変わらない。

 出来上がった焼きアユは横向きの10匹が上下に並ぶ状態でワラで結わえ、いろりの上の横棒に5匹ずつ対になるように引っ掛ける。いろりの煙で薫製が進む。内臓は塩辛にする。これがうるか。切り傷の化膿(かのう)止めにもなる。

 同じ保存食でも最高級品とされるのが、アユの塩干しである「鮎きょう」(あゆきょう)だ。古代、土佐から朝廷への献上品だった記録が延喜式に残っている。

アユずしを手早くつくっていく。酢加減が難しい  アユは水洗いして、ぬめりを取る。はらわたを腐らせないため、ひれの下を切って塩を振り込む。並べて表面にも塩を振ってから容器の中に重ね、重しを載せて2、3日置く。それを水洗いしてから、シュロの葉を口に通して軒下で干す。

 「乾燥しきらないうちに、めん棒で延ばして平らにして、缶に入れて目張りして保管しました。よう県外から高い値で、買い取りに来た。『鮎きょうが1匹売れたらカツオが1本買える』と言うたもんです」と、好美さん。

 この日は、近くの茅吹手から妹の山本光子さん(59)も援軍に駆けつけ、手早く調理していく。「アユずし」、リュウキュウとあえた「背越し」、「アユそうめん」「あめ炊き(姿煮)」、「ナスのうるかいため」「アユ飯」と、並んださまは壮観だ。

 あめ炊きは神祭や正月に欠かせないごちそう。ひたひたの水で4時間ほど煮て一晩置く。そして、しょうゆ、酒、砂糖で味付けしてショウガの薄切りを加えて、水がなくなるまで煮る。

 はしをつけると、すっと切れる。塩焼きのような強烈な香りはしないが、こりっとした歯触りで濃密な味。丹精込めた手順と四万十川に流れている時間とが、作り上げたものだ。暮らしが川とともにある限り、川からの贈り物は絶えないだろう。

 【写真右】アユずしを手早くつくっていく。酢加減が難しい

(協力・土佐伝統食研究会)


【作り方】
焼きアユ
 くしに刺してドラム缶か露地で炭火で焼く。全身を均等に焼き、仕上がり前にくしを回して、身がくしに引っ付かないようにする。

背越し
 アユのうろこ、ひれを取り骨ごと薄く切る。塩でもんでさっと水で洗いあげる。リュウキュウを厚切りし、塩でしんなりさせる。アユとリュウキュウをあえ、ショウガ、サンショウを混ぜる。

うるか
 朝取れのアユはふんを持ってないので、最適。腹わたを取り出し氷水に漬けて洗う。海水程度の塩水に漬けて満遍無く塩が回るようにする。塩水を切って瓶に入れ塩を振って冷蔵庫に保存する。

ナスのうるかいため
 油を引き、うるか、砂糖、しょうゆを入れていためた後、ナスを入れていためる。

アユ飯
 米1升にアユ3―5匹。アユのうろこを取りはらわたを除く。水加減は普通のご飯と同じで、塩、しょうゆ、少しの化学調味料を入れアユを乗せる。炊き上がったら頭、骨、ひれを除いて混ぜる。

アユずし
 アユは背開き。酢に漬けすぎず生の味で食べられるように。すし飯の合わせ酢に小さく刻んだジャコを混ぜ、ご飯にサンショウの葉を細かく刻んで入れる。


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