前市長、松尾徹人氏の県知事選出馬に伴い、急きょ実施が決まった高知市長選。「ポスト松尾」へ2氏が名乗りを上げ、知事選と同時進行で戦いの輪郭も見えてきた。3期9年。松尾市政の轍(わだち)から、降ってわいた「県都決戦」の課題を抽出する。
「休む間もなく、トップスピードで駆け抜けた9年間だった」
松尾前市長の在任最後の日となった10月14日。ある幹部職員は庁舎を後にするリーダーの背を見て、松尾市政をこう振り返った。
トップスピード――。この言葉を庁内で使う場合、多忙をいとわない「元気市長」ぶりよりも、積極型の市政運営を指す意味合いが濃い。その市政は松尾前市長の言う「攻めの行政」とも言い換えられる。
その象徴が、各種の施設整備。松尾前市長が県都のリーダーとなった平成6年11月以降、それまでの革新市政の下で遅れていた施設整備は一気に進みだした。
建設ラッシュ
新清掃工場(総事業費320億円)、陸上・自転車競技場(同195億円)、かるぽーと(同190億円)、東部総合運動場プール(同67億円)などが、その“成果品”。
この集中投資に加え、3カ所の土地区画整理事業や’98高知豪雨の復旧事業も同時進行。「少子高齢化で稼働人口が減る前に、社会基盤整備を急ぐ必要があった」というのが財政当局の一貫した説明だが、施設建設ラッシュは松尾前市長お得意のフレーズ「都市間競争に打ち勝つ」「都市の魅力アップ」に欠かせなかった。それは1期目の公約、「都市美条例」の制定にも通じていた。
しかし、着工した箱物が次々とその巨大な骨格を現し始めると、市議会や市民からは、松尾市政の「綱渡り的な財政運営」に厳しい目が向けられるようになる。批判は借金残高が2000億円を突破した12年度ごろから顕著になった。
市にすれば、9年度以降の三次にわたる財政構造改革で、前市長が「注視するポイント」とした起債制限比率が一度も目標値を超えていないことが反論材料。
庁内には「景気は一向に上向かず、税収が落ち込み、地方交付税は伸び悩んだ。どの市町村も国の経済見通しを受けて財政運営してきた。これで失政と言われるのは…」との言い分もある。
有利な起債
旧自治省(現総務省)出身の松尾前市長は「財政のプロ」と自任する身。その「プロ」が膨大な借金を積み上げた背景には、確かに国の経済政策と軌を一にした流れがある。
バブル崩壊後の「失われた10年」に、政府は数次にわたる公共事業主導型の財政出動を行い、これが国と地方の累積債務の急増へとつながっている。その典型が高知市だった。
国の補助制度などに明るいがゆえに「有利な起債」への抵抗感は薄く、一方では市民の要望にできる限り応えようとぎりぎりまでアクセルを踏み込む。それが松尾市政の「攻めの行政」だった。
しかし今、市民の不安は窮迫した財政運営だけに限らない。
市町村合併、住民基本台帳ネットワークシステムの導入で見せた前市長の国に対する姿勢は、「従順」そのもの。横山前市政では「自治体の権限が中途半端だ」としてためらいを見せていた中核市移行も、松尾前市長は就任後早々前面に打ち出した。
国との連動性を強くしたのが松尾市政の9年。「攻めの姿勢」の奥底にあるものが国への依存心だとすれば、地方分権の本格化する時代にその意味は重い。
【写真】11年秋に完成した陸上・自転車競技場は、松尾前市長2期目の選挙で対立候補に「無駄遣い」と批判を浴びた(高知市大原町)
(高知市長選取材班)
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