「市民の幸せを願い、全力で取り組んで…確かにまちが変わってきた、職員が変わってきたという評価もいただいた」
10月11日。松尾徹人・前高知市長は知事選出馬の記者会見で、自らの約9年間の歩みをこう総括した。
途中降板
その口ぶりには、「県都の発展は軌道に乗せた」とのアピールがにじむ。だが、そこに多くの市民感覚とズレがある。いくら市政の「変化」を強調しても、知事選出馬のために市政を突然投げ出す行為の説明責任を果たしたことにはなっていない。
昨年10月に3選を果たした松尾前市長は、2期目までに社会資本の整備が一定進んだ状況を踏まえ、市政の軸足を「ハードからソフト」に転換してきた。
「だからこそ、これからが仕上げの時期ではないのか」「1年前の選挙は何だったのか」。市の内外からは、途中降板への批判、率直な疑問が聞こえてくる。
決断の直前。シネマコンプレックス(複合映画館)訴訟で、市側は「完敗」した。地裁判決から3日後、松尾前市長は控訴断念を発表する。
周辺部へのシネコン建設反対は、「ノーと言えない市長」が「ノー」と言い切った数少ないケース。11万人署名の“民意”にも、松尾前市長は「中心市街地の空洞化阻止」という理を盾に譲らなかった。
「私は千代田区霞が関の“住民”だった。典型的なドーナツ化地区で寂しい所。高知市の中心市街地をあんな風にはしたくない」
かねがねそんな思いを口にしていた松尾前市長だけに、その考えを理解する市民も決して少なくはない。
だがシネコン控訴断念の時期は、知事選出馬の決断時期と重なる。自ら断ち切らざるを得なくなった施策の一貫性。その一方で、知事の座に対する“未練”は断ち切れなかったことになる。
代理戦争?
前市長の決断は、たちまち異例の「連年選挙」を県都にもたらした。
「市政を託せる人」。松尾前市長が“後継”として白羽の矢を立てた前市産業振興部副部長の岡崎誠也氏(50)と共同会見に臨んだのは、自らの決断からちょうど2週間後。
しかし、この間の「後継探し」は迷走する。助役経験者の名が挙がれば、右往左往する市議会などの動きに業を煮やし、知事選で松尾氏擁立に動いた自民党県議らが調整に乗り出す場面もあった。
岡崎氏が出馬を決めた後も、松尾市政与党会派の市議が出馬の意思をにじませるなど、「ポスト松尾」をめぐる混乱の余波はしばらく続いた。前市長サイドのドタバタの合間にいち早く手を挙げたのは食材卸会社社長、岡内啓明氏(55)だった。
2年の市長選でも出馬に意欲を見せたことがあり、今回は懇意の経営者仲間に推される形で出馬を決めたという。
官と民。岡崎、岡内両氏の目指す県都像や市政運営の手法には違いも見えるが、共通して言及した最大の市政課題は「財政の健全化」。前市長の途中降板は、駆け足で走り抜けた県都の行政課題を図らずも浮き上がらせている。
ただ、今回の市長選にはいやでも知事選対決の構図が投影されてくる。
岡崎氏は「松尾市政の全面継承はあり得ない」、岡内氏は「(知事選と)セットメニューなんてとんでもない」というスタンスだが、一連の流れから「市長選は(知事選候補の)代理戦争になるのではないか」と感じている市民は多い。
かつて「お堀」で深く断ち切られていた県政と市政。それがこの先、どう交錯していくのか。今月30日には、その「かたち」が見える。
【写真】9年間、ともに苦労した職員に別れを告げる松尾前市長。職員の中には突然の市長選に戸惑う声もある(10月14日)
(高知市長選取材班)
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