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春風秋霜  ノーを言わない市政

11月11日付・高知新聞夕刊

 
 就任1年に満たない松尾徹人・前高知市長が、市議会議員から張られたレッテルがある。「ノーと言えない市長」――。

 八方美人

 過大規模校の解消を願う地域住民の声。その声に可能な限り応えようとする新市長。結局、松尾市政は1期目に、二つの小学校(潮見台、横内)の新設に踏み切った。

 「市民要望はできるだけ実現させたい。ぎりぎりまで努力したい。ノーと簡単に言いたくない」

 松尾前市長の政治姿勢は、それまで財政面などから各種要望にガードの固かった市政を、「受け入れ型」へと変えていく。しかし同時に、厄介なものまで市政の中に呼び込んだ。

 「市長に会わせや!」。住民に身近な市町村行政は県行政と比べ、はるかに密度の濃い住民対応が要る。が、それにしても、「怒声を上げる“特別な市民”への対応に職員が追われるケースが、松尾市政になって増えた」との見方がある。あまりにも市民要求に幅広く対応しようとするトップに、幹部が面食らう場面もままあった。

 春風秋霜――。人に優しく、自らには厳しくあれとする前市長の座右の銘は、そのまま知事選出馬に際して掲げた「信頼と協調」路線につながる。対立を好まない穏やかな政治手法。ただ、それも裏返せば「敵をつくらず、丸く収める八方美人型」との負の評価を伴う。

 市議会に対しては「事前の根回し」を徹底する。執行部との関係は“安定”し、対共産党を除けばほぼ円満な議会運営を実現させる一方で、市議会は親市長派による「密室化」が指摘された。「庁内人事も特定会派の意向を重視する傾向が強かった」。今ではそんな声さえ漏れてくる。

 正と負の対話

 変革願望を背負って誕生した松尾市政は、氏原一郎―坂本昭―横山龍雄と続いた43年余の革新市政に幕を引いた。就任後間もなく、市庁舎屋上に翻った「日の丸」がその象徴だった。

 「仕事はへんしも、仕上げはりぐる」が口癖の松尾前市長は、行政にスピードを求め続けた。

 だが、こうした手法は、市民要望の熟度を重視した前市政で経験を積んだ職員らには、「駆け足の市政」「下からの積み上げではなく成果を急ぐ官僚的手法」とも映った。

 あるOBは「最初は市政を変えてくれるという期待があったが、結局は『へんしも、へんしも』と見栄えのする“花火”を打ち上げることに力点が置かれた」と回顧。さらに箱物を建て条例をつくることが「りぐる作業」になり、事後の運用や革新市政で培ってきた住民自治の考えが後回しになったと見る。

 国の承認を優先し、住民対応が後手に回ったエコタウン事業など、市政全般にみられる傾向を指してのことだ。

 もっとも、いい意味での「対話」も松尾市政は積み重ねている。

 松尾前市長は、革新市政が築いていた「純血一家」に、緩やかながらも外部の血を人事移入する。県や旧自治省からの人材ではあったが、異質な者同士の対話は職員の目を開き、革新市政のアキレスけんとされた産業振興面でも対話は進んだ。

 「昔からすれば本当に変わった」。商工会議所をはじめ地元経済界で聞かれる声は、概して対話路線を評価している。同市の防災会議に自衛官が参加するようになったのも「新しい対話」と言えた。

 何でも受け入れる八方美人的な対話と、旧来の枠にとどまらない開放的な対話。松尾市政は継承すべきものとそうでないもの、正と負の遺産を残した。

 【写真】春風秋霜――。松尾前高知市長の政治姿勢は正と負、両面の結果を残した(市議会本会議場)

高知市長選取材班


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