|
緑に囲まれた喫茶店。向かい合った彼女(31)の視線は前方の大きな窓ガラスに注がれている。
「さっきから考えてたんです。こんな昼間に、喫茶店の窓から緑を見たのは何年ぶりだろうって。この5年、まともに休んだのって…。そう、今日が初めて…」
◇
6年前、地元関西の大学で知り合った高知市出身の夫(33)と結婚。翌年、夫の実家の家業を手伝うため、生まれて初めて古里を離れた。
家業は医薬品の販売。「薬剤師の資格を生かして働きたいと思っていたんです」。2店舗を5店舗に増やした。店を軌道に乗せるまでは目を離せない。休むことも忘れ、経営にのめり込んだ。
店長も任されている。おなかがせり出し、いよいよ体がきつくなっても「働いている女性は皆同じ」と思っていた。実家も自営業。母は愚痴一つこぼさず、毎晩深夜まで働きづめで育ててくれた。
「本当は1歳半ぐらいまで、家で見てあげたかったんですけど」。産後間もなく店に復帰。娘を経理担当の義母に預け、保育所を探した。「土曜日を含め午後6時半まで預かってくれること」「病中病後も見てくれること」が条件。しかし認可保育所では皆無だった。憤りが込み上げた。
(高知のどこが「保育王国」? やたら数はあるけど、どこも平日勤務じゃないと預けられない。私のように、土曜も年末年始も休めない人たちは一体、どこに預けたらいいの?)
頼れる友人もおらず、途方に暮れた。そんな折、仕事の関係者が、ある無認可の託児施設を紹介してくれた。条件もぴったり。スタッフに看護師がいるというのが何より心強かった。
生後8カ月で契約。娘はすぐになじんだ。残業で迎えが遅れても、嫌な顔一つせず励ましてくれる。身内のように頼り切っている。
「利用している人には看護師や学校の先生とか、子育てを言い訳に仕事を抜けられない立場の人が多いんです。こういう保育サービスを『本当に安心して子育てできる環境』っていうんでしょうねえ」と大きくうなずく。
夫は「さりげない気遣いを忘れず、家事も黙ってしてくれるような人」。幸い、家族の協力にも、保育環境にも恵まれている。だが、従業員から聞く高知の共働き事情はシビアだ。
「残業で迎えが遅れたら、灯の消えた真冬の園舎の外で、子どもが保育士とずっと待っていた」「『家事はパートのお前の役目』と夫は家のことを一切してくれない」。仕事と家庭の責任を一身に背負い「これ以上迷惑を掛けられない」と職場を去った従業員もいた。
「パートでも正社員並みに働いている女性はたくさんいます。それに、喜んで残業をする人なんて誰もいませんよ。いろいろな事情や働き方に合った質の高い保育サービスが県内各地で受けられる。そうなって初めて『保育王国』と言えるんじゃないでしょうか」
◇
古里にいるときは、政治も選挙も人ごとのように思っていた。経営者となり、母親となった今は、実生活と切り離して考えることはできない。事実、高知で投票を欠かしたことは一度もない。
「耳当たりのいい政策を並べても、そのお金の出元って、私たち現役で働いている世代でしょう。それを棄権するなんて。たとえ白票であっても、何らかの意思表示はするべきですよ」
30日には経営者、母親、一県民として、一票を投じるつもりだ。
【写真】輝け笑顔。命をいっぱい膨らませて―。県土の未来は子どもたちとともにある(写真と本文は関係ありません)
(知事選取材班)
11月27日付・高知新聞朝刊掲載
|