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「本当は、話したくない。匿名でも分かる人は分かるし。でも、悪者みたいに言われる業界の窮状を少しでも理解してもらいたい、そんな思いもありますから…」
夜も更けた自宅で、男性は腹をくくったように過去を語り始めた。50代。少し前までの肩書は建築会社社長――。
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高知地裁で破産宣告を受けたのは1年前。その2年半前、会社は約5億円の負債を抱え、民事再生法の適用を申請した。
「再建する自信はあったんですよ。借金が7割カット。残りは10年の分割。まだ手掛けていた仕事もあって、数千万円は入ってくる。やれるかなって思いますよね」
申請前、公共、民間を合わせた年間完工高は5億円前後あった。再出発を切ったころは高知国体間近で箱物工事が多く、落札価格は入札予定価格にほぼ近い状況。業者間の“調整”も利き、過当競争はなかった。
だが、あては外れた。公共工事の激減が債務の返済計画を狂わせた。
14年度の県土木部と港湾空港局が発注した工事額は、ピークだった10年の65%。小さな工事にも大手が顔を出し、たたき合いで値は下がる。事前公表された最低制限価格に何社も張り付き、くじ引きで落札業者を決める激戦となった。
「うちは再生会社。赤字覚悟の仕事は取れません」。かといって、民間工事の受注競争はよりし烈だ。安値で仕事を取り、そのツケを下請けに押し付けるのもつらい。再生計画は徐々に絵に描いたもちに。
そこから先は「貧すれば鈍す」という、業界特有の転落の仕組みにのみ込まれた。
公共工事は会社のランク付けが大きくものを言う。完工高が減るとランクが落ち、大きな仕事に指名競争入札できる参加資格を失う。以前なら粉飾決算してでもランクを維持していたが、それもままならなくなった。
さらに、5年に一度の「特定建設業」の許可更新も難しくなった。落札した公共工事の一定額以上を下請けに出すのに必要な許可。これがないと、大きな工事は取れない。元社長の会社は業績が細り、許可を受けるための更新要件(自己資本額など)が満たせなくなってしまった。
とどめは銀行が刺した。役員報酬差し押さえ、という手法で。
民再法では会社の財産は全額保全されるが、それは法人名義だけ。そこに盲点がある。地方に多い中小零細企業には、会社の財産が経営者らの個人名義というケースが多い。これは保全対象外。
銀行はそこに目を付けてきた。個人名義の不動産を競売に掛けて回収。そのあとも、運転資金を借り入れる際の個人の連帯保証分まで回収しようと、役員報酬を差し押さえにきた。「会社を続けて財産を食いつぶすより、残っている金を債権者の皆さんに分けた方がましか…」。万事休した。
◇
投票は一度も欠かしたことがない。一度切れたら足が遠のく…そんな気がするから。
もっとも、今度の知事選には期待していない。どっちが勝っても公共工事が増えるはずはないし、県にそのカネ(予算)がないのも分かっている。ただ…。
「公共工事のコストが下がったと喜んでも、税金を払える人がいなくなったらどうなるんでしょう。『もうけさせてほしい』とは言わないが、何にでも『適正』ってものはある」
元社長の周りでは、後を追うように、同年代の経営する建設会社が廃業している。
【写真】建設業界に公共工事の激減が影を落とす(写真と本文は関係ありません)
(知事選取材班)
11月19日付・高知新聞朝刊掲載
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