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街に候補者の連呼が響き渡っていた。先の衆院選期間中、高知市のある飲食店。
「握手してもろうた」
初老の女性の元へ、幼い孫が笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。女の子は握手の際に、候補者からもらった選挙ビラをぴらぴらともてあそび、やがてテーブルの上で鶴を折り始めた。二つ折り、三つ折り…と、次第に小さく畳まれていく候補者の笑顔。
〈選挙なんてそんなもん。どうでもええ〉
女性店員(27)は見るともなしにこの光景を眺めながら、思った。
◇
彼女はジージャン型のコーデュロイジャケットで、仕事を終えて夜の街にたたずんでいた。
「議員とか知事とか、誰がなっても一緒やない? 誰が何を訴えゆうか全然分からんけど。『絶対入れたい』って人もおらんし。世の中、そう簡単には変わりゃせんろう。投票に行くのも面倒くさい。周りの友達とかもこんな感じで」
選挙権を得て、投票に行ったのは一度。20歳になったばかりの時の、生まれ故郷の市長選だけ。この7年間、どんな選挙でも票を投じていない。今回の衆院選も、誰にも、何の思いも、託さなかった。
選挙の秋、県知事選真っ最中―。今度は橋本大二郎氏と松尾徹人氏の名が「よろしくお願いします」の言葉とともに響いてきた。現職知事に県都の前市長が挑む「トップ対決」などと注目も集めている。
それでも―。彼女はこの選挙も、投票に行く気はまったくない。
◇
朝8時半から飲食店で働く。休みは土日以外で月5―6日。週3日は夜、午前0時まで別の飲食店でアルバイトする。それが彼女の生活。
月収は約17万円。家賃、光熱費、携帯電話の通話料。そうぜいたくな使い方はしていない。しかし、「訳あり」の借金の返済が重くのしかかる。手元に残る3万円弱は食費で消える。貯金はない。
「月20万円あったら楽なんやけどね。年金型の生命保険を勧められゆうけど、お金が…。いざというときの備えは必要やけど…」
街で耳を澄ますと、似たような若者の暮らしぶりが聞こえてくる。
「同じ会社に10年近く勤めてるのに、手取りが20万円を超えたことがない」
「仕事を二つ以上掛け持ちせんと、一人暮らしできん。家賃も食費も出せん」
彼女がつぶやいた。「みんな、働かな生きていけんきねえ」。しみじみ語る彼女に尋ねた。今、幸せですか?
「うーん…、ほかの人と比べたら幸せじゃないかも。自由に使えるお金は少ないし。でも、幸せって、どうなったら幸せなが?」
人を幸せにする、その手段の一つが政治ではないか―。そう返すと、「そうねえ…」と黙ってしまった。
県知事選、投票に行きますか。何を託したいですか。安定した暮らし? 景気? 働く場所? 遊ぶ場所を増やすこと? 所得増?
若者に尋ねる。多くは選挙への無関心を示す。ある男性は「誰がやっても変わらんすよ。辺ぴな高知には夢がない」。
彼女は黙り込んだ後、こう言った。「私の幸せと知事の選挙が関係あるが?」
◇
「地方の自立」が叫ばれる中、県知事選と前市長の知事選出馬に伴う高知市長選が30日に投開票される。行き場を失いさまよう一票がある。機械的に投げ込まれる一票もあれば、日々の生活が刻まれた切実な一票もある。選挙カーの連呼にかき消されそうな有権者のつぶやきに耳を澄ます。想(おも)いは何か。
【写真】夜の街で待ち合わせの若者たち。県知事選、投票に行きますか。何を託しますか(高知市帯屋町1丁目)
(知事選取材班)
11月18日付・高知新聞朝刊掲載
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