「小泉首相は自衛隊を撤兵しないと言っている。人間の命の重さに対する思いのかけらもない言葉を国民は許すのだろうか」
4月12日夕。イラクの人質事件を受けて高知市内で行われた署名活動で、松岡由美子氏は初めてマイクを握った。その日の午前中、参院選出馬のため37年間勤めた郵便局に退職届を出したばかりだった。
演説はまだ不慣れとみえたが、新社会党県本部の浜田嘉彦書記長(県議)の松岡評は「女性団体や労働組合での筋の通った運動をみて、前々から議員にと思っていた人」。松岡氏はその後既に、100カ所以上の街頭演説をこなしている。
大敗の痛手
「参院選は護憲勢力の拡大を図る戦い。民主党候補への協力はない」。社民党県連合の江渕征香代表(県議)は昨年の衆院選直後にこう言い切り、早くから新社会党との共闘にも合意していた。しかし擁立作業は難航。めどが立たないまま「憂うつな春」を迎えていた。
理由は昨年の衆院選高知1区での大敗。社民党は、民主党との“分裂選挙”をあえて選択し、党公認候補(新社会党は支持)を立てた。が、護憲の訴えは二大政党化の大波にかき消され、結果は4531票と法定得票数を大きく下回った。比例代表と合わせて600万円の供託金は没収。江渕代表は「精神的、資金的な痛手を引きずって候補擁立に二の足を踏んだ」という。
一方で、改憲への危機感は日に日に募る。
<イラク特措法に基づく自衛隊派遣や人質事件だけではない。改正を大前提にしたかのような国会憲法調査会の議論は進み、来年5月には最終報告の予定。九条の改正は既にカウントダウンが始まっている>
江渕代表らの苦悩は深かった。しかし、浜田書記長の粘り強い説得で松岡氏が決断。一気に歯車が回り出した。4月17日、両党と有志らで支援団体「平和憲法21フォーラム」を結成。護憲を旗印にした態勢を整えた。
労組が足掛かり
陣営は両党と労働組合が中心。連合高知が民主党推薦の広田一氏を推薦するため、戦いの厳しさは衆院選とさほど変わりない。ただ、「広田氏は本籍自民党で改憲勢力」とする見方もあり、連合傘下の組合員らで構成する県平和運動センターなどは松岡氏支持に回っている。
中でも県職労は、夫が組合員でもある松岡氏を「準・組織内候補」として支援。とかく対立する橋本知事と関係の深い広田氏を支持できない理由もあるが、「参院選はあくまで護憲が最大のテーマ。今回やらなくては平和憲法は後がない」(県職労幹部)。1人1000円で1万人を目標にカンパ集めを始めるなど強力にバックアップしている。
松岡氏の知名度浸透はもちろんだが、こうした労組の協力を足掛かりにいかに支持を広げていくかが課題。「イラク問題で戦争に敏感になった県民の意識を引き寄せる」(浜田書記長)「人道支援を正当化の理由に使う小泉政権の矛盾を打破する」(江渕代表)。松岡氏の戦いはそのまま社民、新社会両党の命運を懸けた戦いとなる。
◇
政局絡みの終盤国会、そして有権者意識をにらみつつ予定候補たちの戦いは続く。6月24日予定の参院選公示まであと1カ月――。
【写真】後援会の事務所開きで支持者から声援を受ける松岡氏(5月18日、高知市城見町)
(参院選取材班)
=おわり=
2004年5月24日朝刊掲載
|