県議会9月定例会質問戦初日の9月30日午前10時前。席に着いた橋本は「親知事派」の自民党議員と目を合わせ、「抵抗してくれたのは知っているよ」とでも言うように軽く笑みを送った。
間もなく自民党県議依光隆夫の質問が始まると、ぎっしり詰まった傍聴席を見やることもなくなった。
【写真】橋本知事にとって住民懇談会は“民意”を探る場ともなった(9月14日・知事公邸)
「辞めるに値…?」
質問で過去を蒸し返される橋本。だが、振り返るとすれば12年前の知事選をめぐるごたごたよりも、今年に入ってからの出来事の方がたまらないに違いない。
県議会2月定例会、質問戦のさなかだった。「橋本高知県知事の二男が強制わいせつ・逮捕監禁」が、橋本自身の緊急記者会見によって語られる。週刊誌に事件の記事が掲載される寸前のことだった。
橋本の憔悴(しょうすい)ぶりは、後援会長の町田照代が「大ちゃんが辞めてしまう」と取り乱した様子で、県内の支持者に電話して慰留を促していたことでも読み取れる。
「やっぱり、辞めるのに値することか…」。橋本自身、真剣にそう思ったふしもある。
だが、この問題では兄龍太郎が「力」になった。龍太郎が弟の4選を好ましく思っていないことは人を介して伝わっていたが、そのとき言葉を交わした龍太郎は「この件で辞めちゃいけない」と逆に弟を励ましている。
苦悩する橋本の下には、瞬く間に100通を超すメールも届いた。
大半が激励であり、県民との直結を政治手法とする橋本にはこの種の反応が効く。闇融資事件の引責の仕方で悩んだ時も、結局は県内各地で催した県民集会での声援が「続投」を決断させた。
一方、自民党県議らの間には「これ(二男の事件)で求心力は薄れるはず」とにらみ、対抗馬を探そうとする空気も一瞬流れた。
だが、県議たちは4月13日投開票の統一地方選(県議選)を控え、それどころではなかった。ある県議は、いまさらながら「橋本はつくづく、選挙で救われる男よ」とつぶやく。
その県議選の開票当夜。橋本夫妻が支援した新人候補、高野光二郎の選挙事務所内で当選に歓声を上げる夫人孝子の姿があった。「謹慎も何もあったもんじゃない」との批判をよそに、橋本自身も次第に「やる気」を回復していった。
多選批判
しかし橋本には、まだほかにも障害があった。多選批判。これをどうクリアするか――。
「60歳を超えてやるものじゃない」
「その人自身の問題。気力とやる気次第だ」
あちこちで橋本が残してきた言葉を吟味すると、4期16年という長さを正当化する言葉がブレを見せている。
〈支持者や県民各層の生の声を聞いてからでないと4選出馬の最終判断はできない〉
橋本はそんな思いを膨らませていく。公約づくりを目的に6月から始めた県内各地での住民懇談会は、自らへのまなざしをじかにつかみ取ろうとする作業の色合いが濃くなっていった。
橋本は県議会9月定例会初日、正式に出馬を表明した。橋本の感じ取った“民意”と兄龍太郎が、結果的には橋本の出馬を後押ししたことになる。
その龍太郎が最近、弟を追い込んでいる笠誠一の行動について友人に手紙を寄せている。そこにはこうある。
「(私が)笠氏に対し大二郎の問題で相談依頼している事はまったくなく、ここ数年逢(あ)っていないのが実態です」
(文中敬称略・知事選取材班)
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