自民党県議の依光隆夫は、笠誠一の書いた裏金調達の証言文書を松尾徹人(前高知市長)に見せ、知事選出馬を促した。そこまでした以上、自らも腹をくくらねばならなかった。
松尾に文書を見せた9月5日から数日後、依光は同党県連幹事長の元木益樹に頼み事をする。
「(9月定例会で)“代表質問”をやらせてくれ」
【写真】「六者会談」に臨む(左から)依光県議、横矢社長、笠氏(9月28日午後7時前・高知市の城西館)
吹っ切れた
県議会では代表質問制は採っていない。だが、各会派の最初の登壇者には、10分長い50分間が割り当てられる。依光はそこへ照準を定めた。
実現にはまず、自民党県議団の中を固める必要がある。元木らは「親知事派」を押さえ込みにかかる傍ら、「中間派」や他会派の軸になる県議を笠に会わせるなど、下地を整えていった。
ただ、そうした間も、依光にためらいがないわけではなかった。もともと話を持ち掛けてきた土木建設会社社長の横矢忠志にしても、業界へのダメージを考えてか、文書を白日の下にさらすことを必ずしも望んでいないふしさえあった。
依光がそれを吹っ切ったのが9月16日。笠に「もう一度知事に会って最後の意思確認を」と促したが、それに従った笠は「(知事と会った)8月14日と同じ用件だったら会わない」という知事の意を、秘書を介して聞かされただけだった。依光はその時点で、質問断行を決意した。
一方、同じ自民党内で橋本4選路線で走っていた衆院議員山本有二は、9月の早い段階で依光らの動きを察知していた。
「(文書の)その程度の内容では、知事の命取りにはならん。マスコミも書けんろう。まあ、有罪も無罪も立証できにくい話だ」
山本は県内大手建設会社の社主三谷一彦らに、自らの見立てを弁護士らしい表現を加えて説いていたが、依光らともしばしば接触していた三谷や県建設業協会会長の井上和水は平静でいられなかった。このままでは橋本4選も業界の安定も危うい――。
「尊敬している」
9月28日。質問戦初日を2日後に控えたその夜を、一連の出来事を知る関係者すべてが息をのんで待ち受けた。
橋本を依光や笠らと向き合わせるという土壇場での「当事者会談」。横矢と三谷、それに井上も加わってそんな席が急きょセットされた。
県政トップ自らが際どいせめぎ合いの場へ出ていく――。「知事はなぜ会うた!」。後に親知事派の県議でさえ驚きの声を上げる展開だった。
県政の枠組みさえ左右しかねない重大な会談は、市内のホテルで午後7時から2時間半近くに及んだ。
その席で三谷や井上の放った言葉は、県建設業協会顧問であり同じ業界出身の依光をなやそうとする色合いを含んだ。
井上「4選でいいじゃないか。もうちょっと業界のことも考えてくれ」
三谷「知事にも今後はいいブレーンをつけて…」
これに笠が口を挟む。「それは知事の決めることじゃないか」。誤解だと憤る三谷との間に、横矢が慌てて制止に入った。まとまる話は何一つない。
橋本はほとんど聞き役に終始した。目の前には橋本に厳しい口調で迫る依光がいる。「こんな会に意味はない」と依光らが席を立つ間際、橋本はこう声を絞り出した。「依光さんを、県議の中では最も尊敬しています…」
橋本は夜更けの公邸へ戻り着いたところで、記者につかまった。矢継ぎ早の質問に応じる声には、濃い疲労感がにじんでいた。
「僕に対して(誰が)何を…どう思っているのか…よく分かった」
(文中敬称略・知事選取材班)
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