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東京・羽田。空港にほど近い下町のバス通りに面して、古びた事業所がたたずんでいる。
笠誠一は、左官業を営むその事業所の3代目だが、本業には精を出さなかった。若い時にある人物に師事したのが縁で、橋本龍伍(元厚相、元文相=橋本龍太郎、大二郎の父)の家に出入りするようになり、政治の裏舞台を生きてきた。
高知との縁は、幼少期から知っている大二郎が結んだ。橋本の1期目の選挙途中から陣営に腰を下ろし、名刺には「事務局長」と刷り込んだ。
その実態が選挙利権をも取り仕切るブローカーであったことを、笠自らが12年後に県議会の場で証言することになるが、高知からはしばらく遠ざかっていた。3期目の選挙時に橋本の支持者から「事務所を見てくれ」と言われて足を踏み入れたものの、橋本から追い出される形で高知を後にしていた。
「同志」の要請
その笠の自宅を、高知市内で土木建設会社を経営する横矢忠志が訪れたのは、今年7月3日だった。笠と横矢は、3年知事選時に橋本陣営を裏側で支えた、いわば「同志」の関係にある。
その同志から笠は、橋本県政の長期化が土木業界の末端に与えている影響をこんこんと聞かされた。話の中身には県が導入している低入札価格調査制度などへの強い批判も交じった。
「あんな底なし入札を続けられたら、しわ寄せを受ける下請け業者は干上がってしまう。知事がやっているのは弱い者いじめだ。知事にはもう帰ってもらいたい」
横矢は笠に、「後押し」を求めた。笠は承諾した。それが9月30日の県議会質問戦で飛び出した自民党県議、依光隆夫の「爆弾質問」につながる裏金文書の「原形」だった。
依光は笠を、よくは知らない。が、横矢とはかつて同じ勤め先で上司と部下という旧知の間柄。横矢が笠とのつなぎ役になった。
8月25日。横矢の手引きで笠と高知市内で会った依光は文書を手渡され、目を丸くした。「これは…。本当なら、ただじゃ済まんなるが」
県の闇融資事件で調査特別委員長を務めた依光は、かねがね思っていた。際どい内政の処理を副知事以下に丸投げしていた橋本の無責任ぶりは見過ごせない、と。
依光は気持ちの高ぶりを抑えられなかった。同時にそれ以降ほぼ1カ月にわたって、過去に味わったことのない興奮と不安が交錯する日々を送る羽目になる。この書き物をどうすればいいのか――。思案を巡らせていく過程で、「依光が爆弾を抱えた」とのうわさが水面下で広がっていった。
知事との再会
一方の笠。まだその時点では、自らの書き物が最終的に公の場に出ていくようになるとは思ってもみなかった。
「大二郎を東京へ連れ戻す。国政へ出ればいい。これ以上高知にいれば、いろんなことが噴き出してくる。とにかく改革派の知事が4選なんて、ふざけた話だ」
その笠の下に橋本自身がやってきたのは、よさこい祭りが終わった直後の8月14日。橋本の学友の仲立ちで初めて笠の自宅を訪れた。
横矢から圧力を受けているとの話に、笠は「それはあいつにも言い分があるから」と横矢をかばった。
だが、会話はそれ以上深刻にはならなかった。独特な関係の2人は一つ写真に収まった。そこには、身につけた真っ青なTシャツのように、さわやかな橋本の笑顔が映っている。
(知事選取材班)
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