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橋本知事が4選 松尾氏に4万票差
現職知事と前高知市長の一騎打ちとなった高知県知事選挙は30日、県内53市町村で一斉に投票が行われ、即日開票の結果、現職で無所属の橋本大二郎氏(56)が、無所属新人で前同市長の松尾徹人氏(56)=自民県連・社民推薦、公明県本部支持=を約4万票差で退け、4選を果たした。橋本氏の政治手法や多選を批判する松尾氏が、市長職を任期途中で辞して挑んだ昭和46年以来の「県市トップ対決」は、激しい選挙戦を展開。有権者の高い関心を反映し、投票率は65・42%と、前回11年を2・69ポイント上回った。三位一体改革など地方分権が本格化し、地方は自立と独自性が問われる時代に突入。4期目を迎える橋本県政は、厚みを増した批判勢力を見据えつつ、山積する課題の克服と県勢浮揚への力強い施策展開が求められる。
開票は午後8時からの宿毛市など31市町村を皮切りに開始。当初は松尾氏が好調だったが、開票率10%前後から橋本氏が優勢に立ってリードを広げ、同10時7分、当確を決めた。
橋本氏の得票率は54・79%で前回から12・66ポイント減。得票数も約4万票減らして4回を通じ最低。市町村別では中村市など13市町村で松尾氏を下回り、前回の2村から大きく増えた。
橋本氏は昨年11月、4選への意欲を表明。今年3月には二男逮捕というアクシデントに見舞われたが、6月以降は公約づくりに向けた住民懇談会を各地で開き、実質的な出馬準備に入った。
その後、県議会9月定例会で噴き出す3年知事選での選挙資金調達疑惑をめぐる水面下での動きも視野に入れつつ、同定例会冒頭に「3期目までとは違う4期目の自分に挑戦したい」と県政担当の継続意欲を正式表明した。
これまで同様、政党に推薦・支持を要請しない無党派の姿勢を継続。しおりの発行や組織的な電話作戦などを行わない「カネの掛からない選挙」の実践も掲げ、「改革の流れをさらに大きくするのか、しがらみに絡まれた古い県政に逆戻りするのか」と草の根支持層を再び呼び起こして多選批判をかわした。
農協グループのトップと戦った前回同様に「草の根―組織力」の対決軸を打ち出しつつ、自民党を離党した県議や共産党も支援の輪に加わり、幅広い支持を得た。
一方、松尾氏は現職批判を強める県庁OBや議員、一般市民らからの出馬を求める声を背に出馬を決断。10月14日に市長職を辞して以降、自民党県連ほか政党・団体に幅広い支援態勢を求め、組織力を足掛かりに県内全域への知名度浸透を図った。
多選自粛などを盛り込んだ「知事倫理条例」の制定などを選挙公約に掲げ、橋本氏との政治手法の違いを強調。「橋本県政は市町村、議会、職員との対話が欠如している」と信頼・協調型県政への転換を訴え、現職批判票を取り込みながら猛追した。
しかし、支援政党や団体の多くが橋本氏とのまた裂き・分裂に陥り、任期を3年残しての「市政投げ出し」に対する批判や橋本氏の選挙資金疑惑が絡んだ自身の出馬経緯への不信感も根強く、出遅れをばん回し切れなかった。
県民向いた県庁に 橋本知事
厳しい選挙戦だったが、各地域で組織や団体の力に流されず、一般の県民の方々が数多く手を握っていただいたことが今日の結果につながったと思う。明日からすぐ知事としての仕事に戻り、私を信じてくださった期待に沿うよう、今回私に疑問を感じた方々にも信頼してもらえるような県政を進めていく。
県政と県民の距離をもっと縮めていくことを訴えてきた。厳しい時代だが、県民と行政が一緒になって問題を克服していける関係を築き、県民を向いた県庁にしたい。
橋本大二郎(はしもとだいじろう)氏 56歳 無所属・現4 慶応大経済、法学部卒。昭和47年NHK入局。報道局社会部副部長、同局科学文化部次長などを経て平成3年8月退職。同12月知事初当選、3期目。全国高速道路建設協議会副会長。大規模林業圏開発推進連盟会長。東京都出身。当選4回。
【写真】激戦を制して4選を決め、笑顔で万歳をする橋本大二郎氏(高知市帯屋町2丁目)
余裕なき勝利 基盤に亀裂
【解説】 草の根は、かつてない苦境下でも健在だった。現職の4選を後押しした最大勢力は紛れもなく、「橋本党」とでも呼べる1期目以来の根強い支持層にある。
選挙戦では、自民党を離脱した保守系県議ほか、共産党も橋本氏から「戸惑いを覚える」とかわされながら独自に支援。県内大手建設業者も軒並み加勢している。
陣営の実体は草の根だけではなかったが、橋本氏が激戦を制した決め手は、危機感を燃やした橋本氏の呼び掛けとそれに呼応する改革派知事の「生みの親たち」の、結びつきの強さと言えるだろう。
その呼び掛けも、相手陣営を「改革を阻む抵抗勢力」と位置付ける巧みさだった。
ただ、その草の根層にも今回は静観組がいたし、勢いにかげりもみられる。橋本氏にすれば、勝利の余韻に浸る余裕はないはずだ。
期数を追って増勢した現職批判票の厚みは、もはや無視できないレベルにまで達している。松尾氏への期待票も含め、県内をほぼ二分した今回の結果がそれを証明する。継続する橋本県政の政権基盤にはかつてない亀裂が生じたとみていい。
今後はたちまち「戦後処理」が焦点化するが、激戦の後遺症が噴き出す可能性も大きい。
党本部は松尾氏推薦を見送ったものの、党議拘束を掛け「反橋本」で強硬路線に走った自民党県連、その中核をなす県議団は、知事派の離脱などで15人と勢力を減らしながらもかえって結束を固めている。
県議会内の与野党構成もよりいびつになり、対立の先鋭化が見通される上、県庁内部もきしみがひどい。知事が軸足を「県民」に置くあまり、選挙前に県庁内からは知事批判が公然と漏れていた。職員をも「人」として動かす姿勢なしには、業務の外部委託などを盛り込んだ知事公約の実行にも支障が出かねない。
盤石な県政運営が保証されるほどの信任を得られなかった橋本氏は、筋を通しつつも慎重で思慮深い政治手法が求められるだろう。
一方、敗れた松尾氏は、あと一歩まで迫りながら出馬経緯をめぐる不明朗さなどが最後まで足手まといになった。
噴き出した橋本陣営の過去の裏金調達疑惑に乗じたかのような流れは従来のクリーンなイメージを遠ざけ、「市政放棄」の批判も重圧になった。
「県政の窮状を見るに見かねて」「県全体が良くならないと高知市も良くならない」。松尾氏は懸命に言葉を重ねたものの、攻める立場が防戦に回っては勝機を呼び込めない。
強大な個人人気を維持する現職に挑むのに、政党・団体の組織展開を頼まざるを得ないのは分かるにせよ、無党派の時代に組織に過度に依存する安全志向では、挑戦者としていささか迫力を欠いた。
それにしてもドラマをつくり出すのは、いつも県都だ。昭和の名勝負溝渕―氏原対決で、氏原氏の敗因は地元高知市で票差を思うほどつけられなかったことだった。今回も、郡部でよく健闘した松尾氏の足元に、落とし穴はあった。 (政治部・須賀仁嗣)
窮地救った草の根 橋本知事4選
まだまだ改革、まだまだ“大ちゃん”―。県政トップと県都の前トップが県内を二分する大激闘を演じた30日投開票の’03県知事選。県民は現職の橋本大二郎さん(56)を四たび、県政のリーダーに押し上げ、「改革の継続」を託した。新人の松尾徹人さん(56)は高知市長の職を辞し、政治手法の転換を主張。終盤、すさまじい猛追を見せたがあと一歩及ばず、苦杯をなめた。ともに高知に招かれ、高知の政治を担ってきた“両雄”。それぞれへの熱い期待が、県内各地でぎしぎし音をきしませて交錯した。橋本県政第4ステージ。総仕上げの、厳しい、後戻りできない「改革固め」が始動する。
高知市帯屋町2丁目の事務所。午後10時すぎ、テレビで当選確実が流れた瞬間、支援者たちの大歓声がはじけた。「よっしゃあ!!」「いやあ、しんどかった!!」。黄色いハンカチを振り、涙をぬぐい、肩をたたき合い、握手を繰り返す。松尾さんの大健闘に押された橋本さんは、冷や汗勝利で信任をつかんだ。
当確から10分後。妻の孝子さんと一緒に姿を見せた橋本さんは、支持者にもみくちゃにされながら、心底ほっとした笑顔で、夜のアーケードに感極まった声を響かせた。
「皆さん、本当に、ありがとうございました。厳しい選挙戦でした。各地域で、草の根の方々から、12年前の選挙から一度も会っていない方から、若いお父さん、お母さんも含めて、数多く手を握っていただいた。その積み重ねが、きょうの結果になりました」
闇融資問題、県幹部職員の相次ぐ逮捕…。告示前に巻き起こった3年知事選での選挙資金調達疑惑…。不安は尽きなかった。「反応が薄い」「草の根たちが動いていない」…。
それでも淡々と、懸命に、県内を駆けずり回って「県政改革の継続」を訴えて歩いた。幡多地域での遊説は、横殴りの土砂降り。大豊町の県境では「バス停まで1時間半かけて歩いている」おばあさんと会って驚いた。空き店舗が増えた高知市中心街でのパレードでは、予定の時間が大幅に余ってしまった。
投票を済ませた30日午前、橋本さんは少し脱力した顔で話した。
「あらためて、高知は広い、と。4年前と変わっていることも多かった。山のことを、もっと街の人が知ることだ。街のことを、山や海の人に知ってもらおう。今さらながら、気付きました」
「土砂降りの日、傘がじゃまでかがんで握手するじゃないですか。すると、地域の方々が恐縮されて、もっとかがんでくださって」
4度目の当選をかみしめる事務所。万歳、握手、万歳…。肌寒くなった夜気を、支持者の熱気が吹き飛ばす。
「4年後、皆さま方からありがとうと言っていただけるよう、全力で頑張ります!」
街や山や海の草の根の一票が、追い詰められた窮地の橋本さんを救い上げた。
松尾さん猛追あと一歩 厚かった現職の壁
橋本さんの当確が伝わると、「最終日で逆転」を確信していた松尾さんの陣営は崩れたシナリオにぼうぜんとした。沈み返った高知市升形の事務所に、松尾さんが妻の真理子さんと現れたのは午後10時40分ごろ。落胆した支持者らは、それでも精いっぱいの拍手とねぎらいの言葉で迎えた。
松尾さんのかすれた声が激戦を物語る。知名度では現職に及ばない郡部での演説は自己紹介から切り出した。高知市長の任期を3年も残しての出馬。苦渋の決断だったことを切々と訴えた。争点とすべき県政の停滞をもっと訴えたい。短い時間の中、何をどう伝えれば理解してもらえるのか、毎日、もどかしさもつきまとっていたはずだ。
過去3度の選挙経験が通用しない広い県土。準備期間も短すぎた。追い上げムードが高まった28日午後。大勢集まっているはずの街頭演説が、何かの手違いで一人もいないという事態もあった。それでもいら立ちを表に出さない。選挙カーに乗り、自らマイクを握り、声を振り絞った。
こわばった表情で敗戦のあいさつに立った松尾さん。「多くの方々から高知県を変えなきゃいけないという、強い思いを届けていただいた。このような結果に信じられない思いだが、皆さんの力でここまで盛り上がったことに、私自身は悔いはありません」
「多選のよどみを選ぶか、さわやかな新しい風を選ぶか」という訴えは実らなかった。が、「今の県政に決して皆さんが満足してはいないことは、あらためて現職の知事さんにも伝えたい」と橋本さんに注文。一人ひとりに深々と頭を下げ、握手を交わした。
【写真】「本当にお世話になりました」と支持者にあいさつする松尾さん(高知市升形の事務所前)
県知事選 投票率65.42% 39市町村では低下
今回(戦後16回目)の県知事選の平均投票率は65・42%で、前回11年知事選の62・73%を2・69ポイント上回った。ただ、前回を超えたのは高知市など7市7町村にとどまり、残る2市37町村では低下した。
知事選の投票率は、昭和46年の「溝渕―氏原」の保革対決で記録した77・64%が最高。次いで橋本大二郎氏が初当選した平成3年の75・59%。最低記録は前々回7年の52・85%。
11月9日に行われた衆院選で投票率が過去最低を記録した直後でもあり、現職と前高知市長が対決する今回知事選の投票率が注目されていた。
この日の県内は曇りで、一部の地域では一時弱い雨。有権者の出足は午前中から前回を上回り、午前11時の推定投票率は前回比2・46ポイント増の24・14%。午後1時に同3・75ポイント増となった後、伸びは徐々に鈍化して同7時半には1・25ポイント増の58・79%となった。
市部の平均は前回比4・45ポイント増の61・98%。町村平均は同0・79ポイント減の72・64%。有権者の多い市部の上昇が郡部の低下を打ち消した格好だ。
投票率が最も高かったのは三原村の87・52%で、最低は唯一60%を割った高知市の58・25%。
当日有権者数は65万6303人。男女別の投票率は男62・30%、女68・11%。
12月1日付・高知新聞夕刊
「住民力」で地域づくり 橋本知事4期目へ抱負
前高知市長との激しい選挙戦を制し、橋本大二郎知事(56)が4選を果たした。有権者は橋本県政の継続を選択したが、かつてない批判票の多さは、4期目への課題を突きつけた。厳しい経済情勢が続く中、雇用の深刻化や地場産業の底上げ、疲弊する中山間地域など課題は山積している。国が進める三位一体改革などによって地方分権は今後さらに本格化。地方の自立が求められる時代に、県政をどうかじ取りしていくのか。県・市トップ対決の感想も交え、山本邦義・本社取締役編集局長が聞いた。
【写真】激しかった選挙戦を振り返りながら、4期目への決意や抱負を話す橋本大二郎知事(本社応接室)
―4選おめでとうございます。今の率直な心境を。
初心を忘れずに、また新しい4年間を新たな気持ちで取り組んでいきたいですね。
―今回は県市のトップ対決となったが、ずばり勝因を。
いわゆる草の根の方々が起き上がって、一人ひとりの判断で支持してくださったことでしょう。
―53市町村のうち13市町村で松尾氏の後じんを拝し、得票比率はほぼ55%対45%。これだけまとまった形の批判票は初めてです。どう受け止めますか。
私が知事になってからずっと、全国的に景気も低迷する中で経済、雇用に不安、不満を感じられている方が相当数いる。そのことが県政への批判につながっている面もあるし、選挙が始まる前のいろいろな動きなどの影響もあったと思う。その批判が正しいのか、確かめていく必要がありますね。そういう中で、組織型選挙を相手によく戦えたなというのが実感。団体の力に負けず、一人ひとりが民主主義を支えている、そういう県民の一票一票をより大切にしていかなければいけません。
―変革の時代、課題解決のスピードアップがより求められています。
県独自の判断でスピードアップできるものはやりたい。それと同時に、公約でも挙げたが、住民がお互いに支え合っていく仕組みを作り、県民と目線を同じにした行政とかみ合うことが一番大切だと思う。
―「住民力」という言葉を掲げていたが、県民に伝わったと思いますか。
そう思います。例えば昨年の国体は民泊やボランティア活動が高い評価を受けた。こういう力を地域の健康づくりや子育て支援、南海地震への自主防災につなげたい。厳しい財源の中、地域の自立を目指す。高知だけでなく、これからの地方に絶対必要なことです。
―本県経済は、公共事業や官の施策に依存している部分が大きいが。
「それではいけない」と思った人が過半数を占めたのが、今回の選挙結果だと思う。組織型選挙で組織や団体に従っていく方というのは、官への依存の意識があるのではないかと受け止めた。公共事業でも県が計画から実施まで一方的にやると、受け身の姿勢を県民や企業に持たせてしまう。だから、そういうやり方ではなく、事業計画に最初から加わってもらい、実施していくことで県が抱える重要課題を地域の経済や雇用につなげていくという工夫を一緒にやっていく時代だと思う。
―県庁の業務の3割から5割を民間委託すると公約に掲げましたが。
12月から立ち上げていきたい。どうしても県庁がやらなければならない仕事が幾つあるか、挙げてみる。自分たちがやらねばと思い込んでいる事業はいっぱいあると思う。外部委託という、企業でできることが、役所でできないことはあり得ない。外の目線で見れば当然のことだと思います。
―改革派知事の草分けとして、国に対して一層、声を上げていくことが望まれます。
選挙中、大豊町の山の集落に行ったとき、おばあちゃんが「ここにバスを走らせてもらえないか」と言う。バス停まで歩いて1時間半は掛かると。同じ大豊町では一方で、お年寄りを運んだ人が白タク行為で摘発を受けた。小さな話かもしれないが、こういう矛盾を地方の権限で解決していく時代だと思う。
―一次産業は本県の大きな財産。どう復権させますか。
これは国の政策を大きく転換しなければ解決できない問題。一番厳しいのは漁業と思う。Iターンなど新規就労者への支援を拡充している。農林水産と縦割りで考えず、横につなげて連携して産業として考えていくのも一つの方法です。
―地方分権で三位一体改革が言われる中、森林環境税に続く独自の新税構想は?
描いていません。本格的な財源としては消費税、所得税を地方に移譲するのが筋。新税によって地方住民が負担を感じるのは良くない。
―今回の選挙では自民党県連が対決色を鮮明にしたが、県議会への対応は。
今までと同じスタンス。是々非々です。
―県都、高知市にも新市長が誕生した。連携の方針は。
これまで以上に手を取り合っていきたい。南海地震対策では県、市の壁を取り払って、地域の窓口を一本化するなど具体化できれば。
―最後に、県民にメッセージを。
予算で仕事する県庁から、知恵と自分の力、行動力で仕事する県庁にしたい。来年度予算編成を待つまでもなく、12月からやれることはどんどんやっていきます。
公約は絶対実行を 橋本知事、岡崎新高知市長に望む
県知事選と、これに連動して行われた高知市長選。11月30日の投開票で県の顔に4たび橋本大二郎さん、県都のリーダーに新たに岡崎誠也さんが選ばれた。選挙結果や両氏に寄せる期待など、県民、高知市民の声を拾った。
【写真】県の顔に橋本さん、高知市の顔に岡崎さんが決まった。思い、期待はさまざま(高知市帯屋町1丁目)
激しい選挙戦を振り返り、橋本さん、松尾徹人さんの支持者の思いはそれぞれ。
「草の根の一員として橋本さんを支援した。小さな町で票を奪い合う厳しい選挙で、今後にしこりが残りやせんかと心配です」と長岡郡本山町の自営業の女性(68)。「橋本さんは、やりかけの改革をきっちりやってほしい。松尾さんが取った約19万票は、自分への批判票やと重うに受け止めて取り組んでもらいたい」と話す。
香美郡野市町西野の自営業の男性(55)は「松尾さんを支持していた。権力は長くなったらいかん」としながらも、「橋本さんは『県政を古い体質には戻さない』と訴え続けていた。その点は共感できる。実行してほしい」と要望する。
幡多郡西土佐村の女性(76)は「(橋本さんは)中山間地域で接戦だったり負けたところがある。目を向けてほしいという地域住民の願いの表れ。勝ったから自分の政策は正しい、と考えずに、どうしてこの地域で得票が少なかったのか、背景を考えて温かみのある県政をつくってほしい」。
土佐市の主婦(48)は「両方とも好きで、どっちに入れるか最後まで迷った。松尾さんの陣営が橋本さんの批判ばかりしよったのが気になった」と振り返り、「松尾さんはこれからどうするがやろう。次も出るがやろうか…」。
吾川郡池川町の男性(74)は「橋本さんは森林環境税の創設や間伐推進など苦しい財政の中で中山間施策を打ち出している。期待したい」。
高知市万々の小学校の女性教諭(45)は「今回は2人の公約をよく見た。『公約なんてどうせ選挙の時だけ』と思っていたが、どちらも掲げた30人学級は絶対に実現してほしい。低学年だけでなく1年生から6年生まで実現してほしい」と話す。
県知事選 担当記者座談会
「県市トップ対決」となった県知事選挙は、11月30日投開票の結果、無所属で現職の橋本大二郎氏(56)が、無所属新人で前高知市長の松尾徹人氏(56)=自民県連・社民推薦、公明県本部支持=を激戦の末、約4万票差で破った。一方、松尾氏の知事選出馬に伴って実施された高知市長選挙は、無所属新人の3候補で争われ、松尾氏から後を託された前市産業振興部副部長の岡崎誠也氏(50)=民主・社民推薦、公明県本部支持=が、食材卸会社社長の岡内啓明氏(55)、毎日新聞社元高知支局記者の関谷徳氏(42)を退けて初陣を制した。改革派知事では最長の4期目を迎える橋本氏には「改革の総仕上げ」が、岡崎氏には財政窮乏期の県都運営がそれぞれ負託された。政治手法を最大の争点とした全国注目の知事選と、突発的な「連年選挙」となった同市長選を振り返りながら、それぞれの意義、各両陣営の勝因・敗因、さらに今後の展望などを、政治部担当記者の座談会で話し合った。
A 県全体の平均投票率は65・42%。前回11年知事選を2・69ポイント上回った。この投票率をどう見る?
C 橋本に挑んだ松尾はここ数年、水面下でささやかれ続けてきた「影の対立候補」。この顔合わせで言えば、もっと上昇してもいいと見ていたが。
F いや、知事、高知市長の在職期間で言うと、2人とももう新鮮味に欠けているという評価もあったよ。
D 橋本は不祥事の責任の取り方や多選批判、松尾も高知市政の投げ出しや橋本の選挙資金疑惑が絡んだ出馬の経緯などに批判があった。双方のマイナス面を攻め合う戦いになり、「それほど投票率は上がらない」という見方もあった。
B しかし、先の衆院選で全国最下位だった高知1区とほぼ重なる高知市では前回を6ポイント余りも上回る58・25%。県内の各種選挙で「前回比アップ」を聞くのは久しぶりで、これは評価したいね。
E 浮動票が分厚い市部全体でも、9市のうち7市が前回より上昇。やはり話題性、スター性がある2人の対決だからこそ、ここまで投票率が上がったとみていい。
A 結果は、23万3801票(得票率54・79%)対19万2932票(同45・21%)。4万票余りの差で現職が制したが、この差は「激戦」と言っていい。
B 松尾は準備期間が1カ月程度しかなかったことを考えれば、善戦、健闘だろうね。本紙が終盤に実施した世論調査では、もう少し差が開く傾向だっただけに、最終盤に追い上げた感がある。
D 直前に衆院選があったことで、松尾陣営の核となる政党の動きが制約された。これは「連合艦隊型」の松尾に不利、橋本には有利に働いたと言える。
F しかし、橋本も闇融資事件など県庁の不祥事や多選批判があっても、前回から4万票余りしか票を減らしていない。コンスタントに二十数万の票をたたき出す人気は素直にすごみを感じる。
C ただ、3期12年の総括や、疲弊する県内各分野をどうするか。そんな争点を、現職は「古いしがらみの県政に後戻りするのか」とたくみにすり替えた。対する新人は「ぬくもりのある政治」を標ぼう。このあたりは前回知事選と同じ構図、戦略になった。
E 「改革派知事」が台頭した全国各県をみても、自民党型、旧来型政治への嫌悪感が有権者にはある。「守旧派」に仕立てられてしまった松尾がうまく反撃できなかった面がある。
A 一つ指摘しておきたい。今回は、批判・怪文書が相当飛び交った。出所が分かるもの、分からないものがあったが、後味の悪さは否定できないよ。
A 橋本陣営の勝因をどう分析する?
B 前回は農協組織のトップと争ったが、今回は県都のトップという強敵だった。それが2、3期目には目立った動きをしなかった「草の根」の支持者にも火を付け、底力を見せたということか。
D 戦略的に見ると、最大の勝因は電話作戦だ。「草の根」のネットワークを生かし、それぞれが電話をかける。そうした横のつながりが「ねずみ算式」に広がり、大量の票につながった。
F ただ地域によっては、それまで橋本を応援していた草の根グループのメンバーが、松尾氏に乗り替えたケースもある。単純に草の根の頑張りだけで勝ったとも言えないよ。
E それにしても選挙事務所の簡素さには驚いた。候補者が後援会への入会を求めるしおりは作らないとしたこともあって、数人が常駐しているだけで、ほとんど組織だった動きはなかった。
B その代わりに自民党県連を除名されたり、離党した橋本派の県議の大半が、半ば競い合うように個人演説会への動員を呼び掛け、街頭でマイクを握り、支持拡大に躍起になっていた。
C 共産党は極力、表立った支援活動を避けながらも、12年前の選挙資金疑惑を否定するビラを作っては、党の支持者らに配るなど水面下で票固めをしていたし、実質的にはどの政党よりも橋本県政の与党色が強かった。
F 橋本本人の政治家としてのしたたかさも感じたね。公明党の支持母体の創価学会の幹部に接触したり、政治色の強い連合高知などの組織、団体、企業にも推薦願を次々出した。松尾に対する“足止め”が狙いなんだろうが、個人的な人脈を縦横に使い、打てる手はすべて打つ。選挙で勝つためにしなければならないことを熟知しているよ。
E 選対は、選挙期間中にどれだけの有権者に直接会わせられるかが勝敗の鍵だと言っていたし、本人が顔を見せ、手を握る、橋本ならではの握手戦術が最後の最後になって、組織型の松尾との戦いを制した要因とも言えるよ。
D 2陣営が県都に乗り込んだ終盤戦では、改革派知事や自民党の元幹事長が応援に駆け付け、改革派知事の草分け的存在や全国版の知名度を抜かりなくアピールするなど、ヤマ場をつくる戦術も巧みだった。
C それに、「組織対草の根の戦い」や「古い県政に後戻りさせるのか、改革の継続か」というフレーズを繰り返し強調して、現職知事が既存勢力に挑む構図をつくり上げた。その意味で本来、挑戦者であるはずの松尾を守りに立たせ、一枚上の戦いを展開した。
F 確かに、橋本は相手陣営や各種団体を分断させる名手ではあるね。共産党が「実質支援」を表明した途端に、「戸惑いを感じる」と自ら表明するあたりは、善しあしはともかくとして、勘所を押さえる敏感な政治センスをうかがわせたね。
B 当然、それは共産党と対立する公明党の支持者、とりわけ創価学会の会員に有効なメッセージとなったはずだし、学会幹部に「有権者の心理に応えている」と言わせ、距離を保ちながらも一定の関係を継続する布石になっている。
D それに政策づくりに参加した大学生を運動に加え、無関心層と言われる若年層へのてこ入れもした。ただ、副知事が個人演説会で公然と橋本の応援に立っていたのには違和感を感じた。今までそんな光景に出くわしたことがないからね。
A 話を建設業界の動きに移そう。本来は自民党の最大の支援勢力だが、12年前の選挙資金調達疑惑の浮上で、業界としては「謹慎」するはずだったが…。
E 結果的には大手業者の多くが“団結”する形で橋本支持に回ったようだ。
C 確かに、個人演説会や街頭演説にも草の根の応援団に交じり、建設会社の作業服姿の支持者がきっちりと来ていた。
B 企業によっては電話部隊も配置して、実質的な裏選対の役割を果たしていたところもあったようだしね。
F どこに業界の「謹慎、自粛」の跡が見られたのか、甚だ疑問だよ。
E それだけ厳しい戦いだったという見方もできるし、自民党からのプレッシャーも相当なものだった。業界のあつれきはより深刻になったはずだ。
D それと呼応してか、橋本自身も公共事業の縮減に追い討ちを掛ける低入札価格制度を見直すとも取れる発言を繰り返していた。
A やっぱり、橋本県政四期目でも業界の動きは見逃せない。
A 松尾陣営の敗因はどうなるかな。最終盤の追い込みで手応えを強調していたようだが。
D 過去3回とは異なり、初めて「橋本に勝てる候補」として地域を燃えさせたのは確かだ。特に疲弊が深刻な郡部では、13市町村で現職を制した。中山間地域の現職批判をうまくつかんだ側面はある。
F ただ、時間不足、準備不足は最後まで響いた。県内を一巡しただけで告示日を迎えたのは厳しいよ。郡部では「昨年の高知市長選に出馬せず、各地を回って準備していれば、地域の信頼感も違った」という声を随分聞いた。
C 高知市長を辞めてまで、県政で何をしたいのかを伝えきれなかった印象もあるね。
E 現職の選挙資金疑惑を持ち出した勢力と手を組んだイメージや、任期3年を残して出馬した経緯を現職陣営にうまく突かれた。地元高知市で敗れたのも痛かった。
B 投票日の出口調査を見ても、橋本に差を付けられたのは女性票だ。最終盤に高知市の中央公園で開いた女性だけの集会は盛況。陣営からは「もっと早くやっていれば…」とため息が漏れていた。
A 選挙事務所は、共産を除く県内各党が実質的に相乗りする「連合艦隊型」だった。組織の動きをどう評価する?
C 各党が気を遣った結果、選対本部長には選挙になじみの薄い県OB、事務局長には連合高知幹部が就いた。が、相乗りの負の側面、つまり司令塔不在を感じざるを得なかったね。
E 各党間の連携の面では、民主党の高知市議から「あれほど自民党の国会議員、県議が仕切っていては、事務所に顔を出しづらい」という声も聞いた。
D 衆院選投票日の4日後に知事選の告示という日程だったからね。政権を懸けた批判の応酬の直後に「仲良くやりましょう」とはいかないよ。来夏には参院選も控えているんだから。
A 各党の個別事情はどうだった?
B 自民党県連は松尾出馬の経緯からして「主戦部隊」だったはず。しかし出口調査では、党の支持層が橋本、松尾にほぼ二分されていた。
F 告示前の県連総務会で松尾推薦を強行決定。党議拘束まで掛けただけに、公党として自らの不出来を認めるべきだと思う。気色ばんで取り組んだ割には結果を出せず、総務会決定の前提だった党本部推薦も最後まで下りなかった。
C 自民党本部からすれば、推薦や公認をめぐるこの程度の騒動は全国的にもよくあること。党本部を甘く見過ぎたきらいもある。
E 知事選対応を機に、橋本支援の県議3人を除名し、5人が離党した。不満分子を切る「純化路線」に出たわけだが、党勢拡大に吉と出るか、凶と出るかは不透明だね。
B いや、一つの基軸で結束するのが政党だという考え方は分からないでもない。とにかく、県連は一つの「賭(か)け」に出たと言っていい。
A 公明党県本部も松尾支持だったが。
C 参院選をにらみ、衆院選で一定の成果をみた自公協力の継続を意図した判断だ。県議や高知市議の動きを追うと、党の支持固めよりも、衆院選で関係を作った保守系企業回りを重視していた節もある。
D 支持母体の創価学会が態度を明確にしないと分かって、党の支持固めに動いたのは最終盤だ。態度表明も含め、タイミングの遅れが目に付いた。
F 創価学会と橋本は初当選以来、浅い関係ではないからね。とにかく、公明党と創価学会がこれだけ一致しない選挙は初めて見たよ。
E 松尾を「協力候補」とした民主党県連は、出口調査でも支持層の半数以上が橋本に流れていた。
B 参院選をにらんで自民党との相乗りを避け、松尾推薦の労組勢力にも気を遣った苦肉の策だが、いかにも中途半端だ。「政権交代」を訴える政党の対応としては疑問を感じたよ。
C 国会議員の支援も両陣営に分かれ、党の「バラバラ感」が増幅されたように思う。
D 労組基軸といえば、松尾を推薦した社民も出口調査では支持層が二分した。労組勢力は選挙疲れもあるし、指示の徹底に時間がかかる。
F 各政党は、また裂きに苦しみ、最後まで分断、ほんろうされた選挙だったと言える。
A 松尾本人について付け加えたい。9年間の高知市政には批判される側面もあったが、高知への思いの強さは十二分に感じさせた人だ。盛り上がりに欠けた高知市長選を見れば、松尾の存在感は大きかったよ。
A 橋本県政の4期目の課題に移ろう。まず直面する問題として、政党や県議会との関係はどうなるか。
D 自民党を中心とする反橋本勢力の先鋭化は間違いない。早速10日に開会する12月定例会で橋本への対決色を強めるだろうし、3年知事選の選挙資金疑惑をめぐる百条委もまだ始まったばかりだ。今後どんな事態が起きるか分からない。
C もともと反橋本色が強くない公明党は微妙な立場だね。民主党も来年の参院選にらみだ。
E 一方で、実質的な橋本与党である親知事派の県議や共産党は、自民党などの攻撃から橋本を守ることに全力を挙げるはずだ。県議会内の対立もおのずと深刻化するだろう。
B 橋本は前回の選挙後、“敗者のけじめ論”を展開して物議を醸したし、各党が今回の知事選をどう総括するかも注目される。ともかく、知事と議会には県民不在の不毛な対立は避けるよう注文を付けておきたい。
A これだけの批判票を受けて、橋本の政治スタンスに変化は出るかな?
F 多選批判に対して「4期目は県政改革の仕上げ」と強くアピールし、県民に信任されたわけだから、改革姿勢を一層強めるはずだ。性格的にも妥協はしないだろうし、「県政を一層県民に近付ける」ために掲げた公約の実現にまい進するんじゃないか。
C でも、改革の“実行部隊”はあくまで県職員だ。松尾陣営が指摘した通り、橋本の政治手法に対して反感を持つ職員は少なからずいる。県庁の仕事の30―50%の外部発注は公約の目玉だったが、今のところ職員への説明は不十分で、不信感も生まれている。
A 性急な改革を重ねることでトップが求心力を失っては、組織の改革は立ち行かないよ。
E それに12年間の改革は、情報公開の在り方や職員の意識改革ばかりが目立った。それはそれで必要だが、現在の県民ニーズに合っているのか疑問がある。
D その通り。産業・経済力がどん底にある本県で、県民はもっと暮らしの豊かさに直結する政策を求めている。平たく言えば、「内向きで理念先行の改革」より「いかに食わせていくか」だ。
F 基幹産業である一次産業の従事者や、公共事業に依存する中小の建設業者などは、生活不安が県政への不満に直結しているよ。
B 県勢の疲弊は今に始まった話ではないが、選挙戦を通じて打開策が示されたとは思えないし、橋本は「選挙で県内を回り、地域の厳しい現状をあらためて認識した」と話していた。12年間、何を見てきたんだろう。
A 県政運営では財政の窮迫が深刻だ。職員の大量退職時代を控えて退職金は増大するし、三位一体改革の県財政への打撃は不可避になっている。乗り越えるべきハードルは高いよ。
F 公約に掲げた「“住民力”による支え合いの地域づくり」は、予算減の中で福祉や災害対策を進める本県の将来像としては間違っていない。ただ、「三位一体改革がうまく行けば地方の自由度が増す」との説明や、「国体での民泊の成功」を例に挙げる程度で、県民の理解が本当に得られるのかな。
C 皮相的なアピールは選挙期間中だったからかもしれないが、改革に伴う公共事業減や、県民の負担増について早急にビジョンを示すべきだろうね。
E 厳しい状況下での県勢浮揚策は、知事や議会だけでなく県民全体で考えるべき問題でもある。
A いずれにしても期を重ねるごとに強まる批判と山積する課題に、県政トップがどう立ち向かうのか。今後もチェックを強化していこう。
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