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2004年11月30日付・高知新聞朝刊

   出直し知事選 記者座談会

 前知事の橋本大二郎氏(57)の辞職に伴う高知県知事選は、28日投開票の結果、無所属前職の橋本氏が無所属新人の前高知市長、松尾徹人氏(57)=自民・社民推薦、公明支持=を3万3000余票の差で破り、5選を果たした。橋本氏が初当選時(平成3年)の選挙資金疑惑をめぐり県議会の辞職勧告決議を受けて出直しを図った今回の知事選の意義、両陣営の勝因・敗因、今後の県政課題などを政治部担当記者の座談会で振り返った。(文中敬称略)

 橋本陣営 危機感ばねに草の根燃焼

  橋本は前回から若干得票を減らしたが22万票余りを獲得した。

  それにしても強い。選挙資金疑惑や多選批判の逆風の中でここまで得票を伸ばす強靱(きょうじん)さには敬服するよ。

  政党への抑止力という点では兄の龍太郎が窮地に追い込まれ、中央政界でにらみが利かなくなったのも逆風だ。

  県選出の国会議員とも橋本自身が一定の人間関係をつくっていたが、党本部の号令でそれも雲散した。

  だから自民の幹部や現役閣僚らが松尾支援に相次いで来援した。

  橋本も想定外だったようだ。当選後の会見でも「よく勝てた」と本音をもらしたからね。

  偶然の一致だが、出口調査では橋本が前回から減らした票数(約7300票)は、松尾に乗り換えた公明票とほぼ一致する。

  陣営は、公明代表代行の浜四津敏子が松尾支援で高知入りしたことに真っ青になっていた。

  創価学会の女性票が期待できなくなるからね。

  その意味では文字通り無党派による戦いだった?

  そうとも言えないよ。共産はビラを全戸配布して選挙資金疑惑で橋本の正当性を訴える宣伝部隊になっていた。力の入れ方はこれまでにない党営選挙だったよ。

  でも橋本は口が裂けても「ありがとう」とは言えない。自公の橋本支持者が松尾に流れる遠因になるからね。

  痛しかゆしだね。橋本の選挙には政党が迷惑な存在じゃないかな。

  知事と県議会の関係も問われただけに、支援県議団の動きも今回は活発だったよ。

  ただ、肝心の草の根は盤石じゃなかった。最初は疑惑の影響で明らかにトーンダウンしていたからね。

  橋本も疑惑の説明をしながらどう戦うか相当悩んだはずだ。

  その戦略を教えてくれたのが皮肉なことに組織・政党型選挙を展開した松尾だった。

  確かに松尾側が動けば動くほど強大な組織との戦い、国に立ち向かう改革派知事のスタンスが逆に鮮明になった。

  足が止まっていた草の根も「橋本を助ける」という一点で結集できたし、最終盤にそのうねりが頂点に達し、燃焼した感じだね。

 松尾陣営 組織戦 負の作用も

  松尾は昨年以上の支援態勢で雪辱を期しながら敗退。しかも得票は昨年から187票減らし、陣営は「あれだけ頑張ったのになぜ…」とショックを受けていた。

  序盤のムードは良かったんだけどね。「連合艦隊で司令塔不在」と言われた昨年の反省から、選対会議は各党と支持団体の合議を重視した。すべての歯車がかみ合っていた印象だった。

  組織が前に出過ぎないよう自重し、松尾の人柄や行政経験を訴える戦略。昨年から1年間で培った「松の根」も一定広がりを見せ、無党派層を取り込む新たな展開も見られたね。

  情勢が変わったのは中盤以降だ。自民本部が県内の選挙でかつてないほど力を入れ、党幹部や現役大臣らを次々投入した。陣営に勢いが出たのは確かだが、候補者の存在感が薄れてしまったし、橋本陣営に「草の根を押しつぶす組織」という反撃材料を与えた。

  自民色が強まれば無党派層は離れる。社民や連合など革新系の動きも鈍り、陣営内の足並みが乱れた感もある。当初の戦略を貫いておけば勝機はあった。

  いや、支持拡大の決め手がなかったから組織に頼るしかなかったんじゃないかな。特に自民本部に背中を押される格好で公明も本部が本腰を入れた。自主投票だった創価学会も最終盤に松尾支持を徹底し、出口調査では公明支持層の8割以上を固めている。

  橋本を支持する大手建設業者への自民の締め付けもすごかった。ここまで組織選挙を徹底すれば、普通はプラス効果がマイナスより大きいはずだが…。

  それでも票が伸びなかった一因には、現在の国と地方の関係があるだろう。県財政は三位一体改革で破たん寸前だ。政権党や大臣らと手を組む構図が好印象を与える状況ではなくなっているよ。

  「和をもって貴しとなす」という松尾の性格は本来は日本の土壌に合う。しかし、今は地方自治の転換期だ。結果的に松尾は、国に物を言う橋本の引き立て役に回ってしまった。

  橋本の対抗馬に担ぎ出された経緯も含め、松尾は時代にほんろうされたと言えるね。引退には素直に「お疲れさま」と言おう。

 

 今後の県政

  今回の選挙で橋本と県議会の関係はどうなるか。対立がいっそう深刻化するという見方があるが。

  辞職勧告決議を主導した反知事派は民意の所在を見誤り、厳しい立場だろうね。県民に「知事いじめ」と映った結果は、知事不信任に揺れた長野、徳島と同じだ。

  「法的拘束力のない辞職勧告では辞める必要がない」という考えも国政の永田町、高知でいえば「丸ノ内の論理」。出発点からして民意とずれていた。これを機会に足元を見つめ直す必要があるね。

  橋本に説明責任を求めるなら、県議自身も自らの姿勢をきちんと県民に説明しないといけない。一部の県議を除き、「なぜ辞職勧告か」を県民に浸透させる努力が足りなかった。

  ただ、県議会も橋本との対立ばかりが注目されるが、議員提案で条例を制定するなど変わりつつある。橋本も円滑な議会運営に向けて努力しないと、対立の溝は深まるばかりだ。

  当選後の記者会見でも「自分一人では県議会との関係は変えられない。パイプ役がほしい」と言う。主体性が見えない。

  今後は橋本を支援した21県政会を仲介役に、自民などとの関係修復を模索するだろうが、それも容易ではないだろう。ただ、知事、県議会双方の意思疎通は県勢浮揚に不可欠。これ以上の政争は避けてほしい。

  政党では、自民県連の戦後処理は深刻だ。前回知事選、参院選と続く3連敗。特に今回は本部推薦を得て敗れた。県連改革を決めた矢先の敗戦だが、まさに解党的な出直しの覚悟がいる。

  県連会長の中谷元は「敗因が分からない」と困惑していたが、その言葉自体が深刻さを表している。ポスト中谷の態勢を早急に整える必要があるね。

  民主県連はねじれが際立った。高知市長時代から松尾を支える枠組みがあっただけに、やむを得ない面もあるが、自民に対峙(たいじ)する勢力としては、中途半端な感は否めない。

  連合高知傘下の労組も対応はばらばらだった。県連、労組が一枚岩になれる戦いができないと、今後も確たる基盤は築けないだろう。

  知事復帰後の橋本には、県の財政危機対応が待っている。三位一体改革の行方、特に本県の存亡にかかわる地方交付税の問題が未確定なだけに、前途は厳しいね。

  県議会、財政危機対応とも今後の橋本県政の大きな課題となる。水面下の動向も含め、県民に分かりやすい形で示していこう。

 

 総  括 「疑惑」争点にならず

  結果を見ると、1年前に行われた前回知事選とさほど変化はなかったな。

  得票数は橋本が約7300票減、松尾が約200票の減。市町村で多少ばらつきはあったものの、総じて橋本は東部、松尾は西部で優勢。無党派層が多い高知市の票は橋本に厚く出た。

  投票率もほぼ前回並みだね。県平均は0・86ポイントの微減で64・56%。両陣営とも前回を5ポイント程度下回る60%前後を予想していたんだが。市町村でも大半で目立った増減はみられなかった。

  松尾は「政治生命を懸ける」と退路を絶ち、中盤以降これ以上ない組織戦を繰り広げた。一方の「草の根」もこうした動きを受け、「橋本ブランド」喪失に危機感を募らせたからね。

  ただ、選挙資金疑惑に端を発し、橋本が「信を問う」と打って出た今回の出直し選。大きな争点だったはずの疑惑と政治責任はうやむやになった。

  同感。橋本は当初、演説会で釈明と謝罪を繰り返していたが、中盤からこの問題に触れることも少なくなった。

  松尾は選挙戦の争点化を避けた。疑惑浮上と出馬表明が連動した形となった昨年のマイナスイメージを考慮したのかな。

  松尾の演説会では、自民県議が疑惑について説明していたが、特に郡部での聴衆の反応は芳しくなかった。

  告示前の県民世論調査で資金疑惑を「よく知っている」はわずか17%。この延長線上で出された辞職勧告決議にも県民の評価は低かった。

  だが、よく思い出してほしい。県議会が辞職勧告決議に至ったのは橋本に説明責任を果たそうという姿勢が乏しかったから。10月末に発表された説明文書も背景説明に力点が置かれており、支持者にさえ失望の声が聞かれた。

  世論調査では出直し選に至った最大の理由として、4割近くが資金疑惑に関する橋本の説明不足を挙げていた。

  そんな状況下で有権者の判断が問われたのが今回の出直し選。当選後の記者会見で橋本は「選挙の結果をもって一定の説明としたい」と述べ、支持層には決着したとの見方が多い。

  選挙で勝つのと疑惑の説明を十分にしたかは別問題。橋本は辞職前の記者会見では「県民の不信はすぐに払しょくされないと思う」と不安も口にした。

  いや、選挙で勝てばみそぎは済む。この論理は動かし難い。

  それでも「政治とカネ」は政治に携わる者の普遍的なテーマ。今回の出直し選はそれに対する答えになっていない。

  今回の選挙戦の引き金にもなった選挙資金。2人とも「金の掛からない選挙」を目指していた。両陣営の収支報告のチェックなど事後検証が大切だ。

  こうして見ると、今回の出直し選の意義は何だったのか。

  県議会の辞職勧告決議を受けた知事の辞職自体が全国的にも極めて異例で、そもそもの出発点から違和感が否めなかったけど。

  当初から自民の一部や松尾支援者の間には“不戦論”がくすぶっていた。何のための選挙か、と。選挙が終わった今になっても説得力はあるよ。

  ところが必ずしも民意はそうじゃない。世論調査では58%が橋本の辞職と出直しを支持した。

  橋本は選挙を通じて「出直して心置きなく仕事をできる力を得たい」と強調したが、得票も減った状況でその力が大きく膨らんだとは思えない。

  そこは支持した有権者も考えないと。単に選んだだけでいいのか、とね。

  選挙ムードは中盤まで低調に見えたが、有権者は決して冷めていたわけではない。この選挙をどうとらえたらいいのか、最後までじっくり考えようとしていたんじゃないか。

  前向きに意義を見いだそうとするなら、知事、県議会、県民が“三位一体”となった地方政治が成熟する過程ととらえられるだろう。




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