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ルールあいまいなまま
「脳死」は“限定された死”である。
臓器移植法は、人が脳死に陥った場合、生前に脳死後の臓器提供の意思を持ち、家族の同意があって初めて人を「死者」と認め、臓器を摘出してもよいとしている。
しかし、臓器提供の意思を持っていない、提供したくない、と考えている人は、たとえ脳死になっても決して「死者」として扱ってはならない。「生者」なのである。脳死に陥っても、臓器提供意思があるかどうか(家族の同意も含めて)によって「死者」として扱われるか、「生者」として扱われるか分かれるわけだ。
脳死をめぐって賛否の両論がある中で、臓器移植法は移植医療への道筋をきっちりと付けるとともに、臓器移植に否定的な人の権利を守る役割も担っている。こうした際どいバランスに立つ法が、正しく厳格に運用されるかどうか、国は環境づくりやルールづくりを進める責務がある。しかし厚生省は、その責務を果たしているとは言い難い。
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臓器移植法は平成九年六月十七日に国会で成立した。同法を補うために、厚生省は省として「臓器移植法施行規則」(厚生省令)を定め、同時にさらに下部の厚生省保健医療局長名で「臓器移植法の運用に関する指針」(ガイドライン)を関係機関に通知した。これらは互いに複雑に絡み合い、全体として雑で分かりにくい。
例えば、法的脳死判定の具体的なやり方を調べようとすると、どうなるか。
臓器移植法はごく簡単に「医学的知見に基づき厚生省令で定める」と記すだけ。省令を見ると、五つの判定項目と順番などが大まかに分かるだけだ。
そこでガイドラインをたどると、「個々の検査手法は、厚生省研究班の昭和六十年度研究報告書や同研究班が平成三年に公表した『脳死判定基準の補遺』に準拠して行う」とある。
この厚生省研究班は昭和五十八年、現在の竹内一夫・杏林大学名誉教授ら専門家グループが、自らの研究として脳死判定基準をまとめるために集まったもので、厚生省がそのメンバーを選んだわけではない。厚生省はこの専門家集団に研究費を出しただけにすぎない。
厳格であるべき人の新たな死を認定する法律の土台は、公的なものか私的なものか、非常にあいまいな専門家集団の報告書にたどり着く。
しかも、その研究報告書自体完全なものではない。無呼吸テストの検査順番について、五項目の最後と書いたり二番目と書いたり、矛盾した記載がある。
さらに、研究報告書に付け加える形で出された「補遺」は、成り立ちそのものがあいまいだ。
昭和六十年の報告書発表時のメンバーに新たに二人を加え、検査順番の矛盾解消などに若干の修正をした形で、学術論文誌に発表した。補遺作成に当たって研究班は、厚生省から研究費を受けたわけではない。補遺には私的な色合いがにじむ。
厚生省は、学術研究で、矛盾さえ持つ研究報告書と補遺を、そのまま法律の土台として採用した。しかも、矛盾や問題点を整理し、統一した文章を作る努力すらしていない。
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こうした指摘について、厚生省臓器移植対策室の朝浦幸男室長は「ルールを充実させるために、もう少し分かりやすいものがあってもいい。例えば、『これさえあれば大丈夫』というようなマニュアル的なものの作成や、判定医講習会の開催などで(ルールの)周知徹底を図りたい」と話す。
ただし、現在のルールについての認識はあくまで「不十分だったわけではない」(朝浦室長)。つまり、基本的には十分、というものだ。今後、ルールを改正するなど根本的な対応を行うかどうかは現時点では分からない。
ルール自体が危うさを抱えている現状なのに、脳死臓器移植をめぐる動きは、さらに加速しようとしている。
臓器移植法の基本理念である「脳死」を、“限定された死”ではなく、一律に人の死とする―。根本の部分をなし崩し的に変えていこうとする動きが出始めている。それに危機感を覚える人の声もある。
(社会部取材班)
【写真】法的脳死判定第一例に際し、厚生省から派遣された臓器移植対策室の阿万哲也室長補佐(2月26日、高知赤十字病院)
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