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【園芸便走る】(下)
増加する「相対取引」
午後十一時。真夜中の市場はひっそりと静まり返っている。荷降ろし場一面に園芸作物の入った段ボール箱が積まれてはいるが、人影はまばら。ウィーン、ウィーンというフォークリフトの音が市場中に響きわたる。市場の従業員は全国から集まってくる何千個もの荷物を黙々と整理し、早朝の競りを待つ。
尼崎市内の尼崎中央青果に到着した四国運輸(高知市布師田、小川雅弘社長)のトラックは荷降ろし場に向かってゆっくりとバック。運転手の北添正広さん(51)が軍手をはめて飛び降りた。
これから北添さんは運転手から作業員に“変身”する。この市場に降ろす園芸作物は段ボールにして三百二十三個。中身が園芸作物だけに、一箱一箱丁寧に降ろさなければならない。市場の従業員も手伝ってはくれるが、かなり時間のかかる作業だ。
「次は、203のメロン」
「それはここへもらおうか」北添さんは市場の従業員とあわただしく言葉を交わす。番号は農協の出荷場別についている認識番号。ちなみに「203」は土佐香美農協・夜須出荷場。
送り状と箱をチェックしながらの作業は約一時間に及んだ。北添さんの額にうっすらと汗がにじむ。タオルで顔をサッとふくと、すぐにまた運転席に乗り込んだ。
「まだ二カ所に降ろさんといかんきねえ。あんまりのんびりはできん。市場は荷物を早く欲しがるがよ」
■早い到着を要求
市場が荷物を早く手にしたいのには理由がある。「相対取引」によって商品を大量に買い付ける量販店が「少しでも早い商品の入手」を要求しているからだ。
「相対取引」は売り手と買い手が一対一で価格や数量を協議して売買契約する方式。例えば、ナスを百ケースほしい量販店があるとする。市場は量販店と事前に一定の値段で取引をまとめた後、産地と「相対」を成立させて百ケースを確保する。そして、産地から市場に品物が届けば競りにかけずに量販店に販売する。
市場を介さずに産地と量販店が直接「相対」する場合などもあり、「相対」の形態は一口では言えないが、競りによる取引が主流だったこれまでと比べ「相対取引」は確実に増えている。県園芸連によると、関東の市場では既に六割以上が「相対」になっており、大阪の市場も三割前後は「相対」になりつつあるそう。
量販店は自らの販売ルートに乗せるため、少しでも早く商品がほしい。だから、「相対」の割合が増えれば増えるほど、「早めの荷物到着」が要求されるということになる。
■終了は午前3時
トラックは真夜中の道路を次の市場へ向かう。二カ所目でも同じような作業が続く。額の汗は乾く間もない。運転するよりも荷降ろし作業の方が大変に見えるが、北添さんは「慣れているから大丈夫」と力強い。
三カ所目の作業が終了した時には午前三時を回っていた。二カ所目が込み合っていたため、やや遅れ気味だが、ほぼ順調にこの日の運送作業は完了した。
「これで終わりやー!」
最後の荷物を降ろし終え、トラックに乗り込んだ北添さんの声が車内に弾んだ。後は大阪北部の茨木市内にある「北大阪トラックターミナル」に直行し、仮眠室で寝るだけだ。北添さんのハンドルを握る手が心持ち軽やかになったようだ。
仮眠室に向かう途中、コンビニエンスストアに寄り、ビールを買った。駐車場に止めたトラックの中で乾杯。五百ミリリットルのロング缶を一気に飲み干した。
◇ ◇
明石海峡大橋開通がスピードアップに貢献してくれればいいのだが、残念ながら、徳島県の高速道が全線開通していない現状では無理。瀬戸大橋経由の方が早い。結局、明石開通が園芸輸送にもたらしたメリットは、今のところ輸送コストの軽減にとどまっている。全線が高速道でつながった時に園芸輸送がどう様変わりするのか。その時が楽しみだ。
【写真】市場での荷降ろし作業。一カ所で200−300個の箱を降ろしていく(尼崎市の尼崎中央青果)
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