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第2部 「県是」の歩み<7>
【大岡裁き】

全面凍結から解除へ

 昭和四十八年十月、着工順位が決まらないまま三ルートに工事実施計画の認可が下りた。そして起工式を五日後に控えた十一月二十日、政府は突然、起工式の延期を発表した。

 理由は、十月にぼっ発した第四次中東戦争に端を発した第一次石油ショック。日本経済はまひ状態に陥り、総需要抑制策の前に本四架橋は「全面凍結」となった。式典準備を進めていた各県は声を失ったが、なすすべもなかった。

 翌四十九年十二月九日、三木内閣が発足し、建設相に県選出衆院議員の仮谷忠男が就任。主要閣僚に架橋三ルートの地元議員がずらりと顔を並べ、「橋内閣」と呼ばれた。年が明け、仮谷が凍結解除に向けて動きだした。

 「内密の話がある」。徳島県知事の武市恭信が仮谷から連絡を受けたのは、統一地方選が終わってからだった。四月二十八日、二人は東京・紀尾井町のホテルニューオータニの一室で向き合っていた。

 「君も知っているように私は明石−鳴門ルート論者だ。しかし、このままでは三本とも駄目になる。一ルート三橋方式しかない」

 そう説きながら、仮谷は涙を流した。

 「三木総理はご存じですか」。驚きをかみ殺して尋ねる武市に、仮谷はうなずいた。

 会談はそれで終わった。

 徳島県美馬郡貞光町の自宅で、八十一歳になる武市がたばこをくゆらせながら回想する。

 「真剣な話は長くはしないもんだよ。三木さんには確かめもせんかった。仮谷さんは気骨のある政治家だったな」

 経済情勢から三ルートの同時着工は困難。ならば優先着工ルートを絞り、他の二ルートは地域開発、経済効果を考えて検討する―これが一ルート三橋方式。

 一ルートは児島−坂出ルート(瀬戸大橋)を意味していた。仮谷の秘書官だった竹内政衛(69)=東京都世田谷区下馬=は言う。

 「オヤジは『瀬戸内海に鉄道が走っているじゃないか』という言い方をよくしていた。宇高連絡船を(海上の)レールとみなしていたわけだ」

 鉄道併用橋にする以上、鉄道網の整備が進み、技術的にも問題が少ない児島−坂出ルートが優先されるべきだと仮谷は考えた、と竹内は解説する。

 八月十五日、副総理・経企庁長官の福田赳夫、国土庁長官の金丸信、そして仮谷による三閣僚会談が開かれ、三日後、最終的に凍結解除が決まった。

 ■華の人生

 仮谷は土佐清水市の以布利出身。県議会議員になる前は漁協の組合長だった。あるとき、集落に寺を建立する話が持ち上がったが、カネがかかり過ぎるため話がまとまらない。

 仮谷は「賛成の人」とは言わずに、「反対の人」に挙手を求めた。だれも手を挙げなかった。神仏に関することは正面切って反対しづらい。人の心理を読み、落としどころを探る仮谷らしさを物語るエピソードである。

 仮谷の一ルート三橋方式は「現代の大岡裁き」とも評された。

 長男で県立高知短大教授(政治学)の仮谷仁(61)=高知市朝倉丁=は、「行き詰まった場面でどう方向を出し、突破するか。あの人の力量、持ち味が最も発揮できたと思う」と語る。

 十二月二十一日、一ルート三橋のトップを切って大三島橋(尾道−今治ルート)の起工式が行われた。氷雨を突いて式典に出席した仮谷は持病のぜんそくをこじらせ、翌五十一年一月十五日、現職閣僚のまま帰らぬ人となった。六十二歳だった。

 「橋を架けることが政治家としての夢でしたから。華の人生だったと思います」

                                   (文中敬称略)

 【写真】本四架橋の着工凍結解除を協議する(左から)仮谷、金丸、福田の3閣僚(昭和50年8月15日、首相官邸)


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