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第1部 「明石」前夜<8>
町工場
(神戸市)

【不況】

橋?そんなん知らん

 「神戸冷えてなあ、元気ないねん」。神戸市内を取材して回ると、たちまち疲れてしまった。量販店の店長も、地下街の経営者も、板金屋のおやじさんも、明石海峡大橋には大して興味を示さない。「橋よりまず不況」なのだ。

 「川重も三菱も、目の先は東南アジアやね。十八人いたうちも今は六人。半分はパート。冷えてますわ」。同市兵庫区で船舶エンジン部品を下請けで製造している「神戸マシン」社長、伊藤八郎さん(55)=土佐郡大川村出身=もそう言った。

 「行き着くとこは地震やで」。神戸港のそば。川崎重工業神戸工場の塀が見え、鉄や油の匂(にお)う作業場で、伊藤さんが話を継ぐ。

 「きれいごと言う人おるけどな、全焼したケミカルシューズや鉄工所は、ローンや機械のリース代抱え、どんどん転廃業や。うちにも借金と心の傷を抱えた職人がいた。失業者も雇うたけど、義援金もろて勤労意欲なくして、半年持たんかったわ」

 「取引先に死んだおやじもおる。つらいけど見てみるか」

 伊藤さんは、七年一月の震災で甚大な被害に見舞われた長田区内へ、軽トラックで案内してくれた。

 かつて町工場がぎっしりと並んでいた一帯は、辛うじて操業を再開した工場と、あるじの去った更地が残っていた。神戸市によると、長田区内の製造業者数は八年七月で二千二百二。震災前に比べ九百三十五の減少。

 「やっとるかー」。伊藤さんが元気に声を掛けて入ると、約三十平方メートルのプレハブ建物に、中古の研磨機が一台。入り口には紙にフェルトペン書きでビニールに包んだ「屋島工作所」の“看板”。経営者の市山研治さん(51)=高松市出身=が、注文が入ったばかりの設計図を見せ、伊藤さんに助けを求める目をした。

 「明日までやて。納期むちゃくちゃや。一台では無理や。もう一台あったらなあ」

 市山さんは震災で住宅も工場も一挙に失った。家賃の安い家を探し転々。研磨機を一台借り、船舶部品製造の飛び込み仕事で暮らす。売り上げは震災前の三分の二。今も全焼した機械二台のリース代月五万円を払い続け、現在のリース代、家賃もかさむ。

 「復興支援いうてもな、運のええ人が当たるだけ。この間も中小企業庁のエライさんが相談に乗るいうから、印鑑や見積書持っていったわ。担保も保証人もないわしら、何もでけん。『助けたる』いうて、あれはうそ」

 ぼろぼろになった「一日中小企業庁の開催」の案内状を見せ、缶コーヒーをズズッ。あごをカク、カク動かしながら、こちらの質問にひと言。

 「橋? そんなんつくん?。どこにでけるん?。あほらし」

 ■まだまだつらい

 神戸商工会議所が昨年六月に実施した明石大橋開通の経済効果に関するアンケート調査では、回答企業六百六十六社のうち、「プラス効果あり」は三五%にとどまった。「効果なし」「マイナス効果あり」は六三・一%。

 「『効果あり』は建設、観光、物流に偏っていて、具体的な取り組みを聞くと『これから』。つまりここは被災地だからですよ。どうしのぐか、どう立ち直るか、『橋より融資だ』と考える。まだまだ効果のイメージがわかない」(同会議所の担当者)

 昨年末。宝石のような電飾で街を彩るイベント「神戸ルミナリエ」が三年目を迎えていた。震災で義足になった女性が「写真を撮って」と声を掛けてきた。華やかさの裏に垣間見る震災の記憶と傷だ。

 「つながった先の神戸、まだまだつらい。高知のみなさんによろしゅう」。伊藤さんの、別れ際の言葉を思い出した。

 【写真】神戸マシンの工場。生き生きとした伊藤社長も「神戸は冷えている」と話す(神戸市兵庫区)


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