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(6)
第1部 「明石」前夜<6>
フェリーむろと
(東洋町)

【明暗】

操舵室に漂う不安感

 華やかな明石海峡大橋開通の裏には負の側面もつきまとう。中でも最大の存在が離職船員たちだろう。

 橋の影響で四国と関西を結ぶフェリーのすべてが影響を受け、ほとんどが廃業または縮小する。離職者数はざっと二千人。外国人船員の導入が進む海運界にそれらを受け入れる余地はなく、かと言ってこの不況下では陸上にも満足な職はない。

 大阪南港、午後十一時。船腹に赤い鯨を描いた大型フェリーに次々とトラックが吸い込まれていく。

 フェリーの中では一人の航海士が入るトラックに指示を与えていた。笛を吹き、棒を振り、時には大声をあげて手際よく所定の位置に停車させる。ドーン、グオーッ、キーッ。大音響が車両甲板に響く。排ガスが充満する。息を止めたくなるほどくさい。

 午後十一時十九分、車両の乗船が終了。と、航海士は脱兎(だっと)のように階段を駆け上がった。それこそ全力疾走で四つの階段を駆けて最上部のブリッジへ。真っ暗なブリッジに立つと、すぐに船が岸壁を離れ始めた。息を整える暇もなく、はきはきと船長の指示を復唱する。やっとひと息ついたのは午前零時。船は安芸郡東洋町の甲浦港を目指し、狭い紀淡海峡へと針路を向けている。

 「仕事? うーん、面白いですよ。好きです」

 にっこり笑う目がきらきらと輝く。

 清岡なお子さん、二十四歳。外国航路の機関長をしている父親の影響で、安芸高から神戸商船大に進学。一昨年、フェリーむろとを運航する室戸汽船に就職し、同船の三等航海士を務めている。

 「外国航路の会社も受けたんですけど落ちちゃって。なら地元に、と…」

 同船は大阪南港と甲浦港、土佐清水市のあしずり港をせわしく往復している。清岡さんは八日間勤務して四日間の休み。休みの日は安芸市伊尾木の自宅に帰るから、いわば地元就職と言っていい。

 まとまった休みがある半面、勤務は厳しい。当然ながら仕事は男性と同じ。当直ともなると、ブリッジにいるのは操舵(そうだ)手と自分だけになる。決断は航海士である自分が行わなければならない。

 室戸岬とあしずり港の間が最も緊張する。外洋とあって天候の変化も波の大きさも格段にすさまじく、会社によると「技量がなければ務まらない」とか。その辺り、「彼女は実によくやっている。特に気象をよく研究し、実践に生かしている」と評価する。

 ■未来を信じて

 清岡さんの願いは船乗りを長く続けること。が、会社は明石海峡大橋開通後の廃業を決めた。東洋町が中心となって第三セクターでの航路維持を検討しているが、実現は未定。頼りになってくれるはずの県は「三セクでの経営は困難」と冷たく言い放つ。県はこの船の運航継続案をつぶす腹を固めているようだ。清岡さんが言う。

 「個人的には不安ですよねえ。仮にこの船がなくなったら? どこか拾ってくれる船があれば行きたいんですが…。まあ、なかなかないでしょうねえ。陸(おか)の仕事って言っても、私はなにもできないし…」

 傍らの加藤健蔵船長もこう口を添える。

 「乗組員はみんな不安を持っていますよ。なくなってしまったら、私はまた別の船を探します。今までずっと船でしたから、陸上じゃ仕事はできません」

 同船の乗組員は四十八人で、うち本県在住が三十五人。船長が言う。

 「橋ができたからといって、それほど急に利用客が減るんでしょうか。(三セクの実現で)船が残ると私は信じています」

 【写真】出港後、海図室で打ち合わせする加藤船長(左)と清岡さん(フェリーむろと)


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