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【攻め】
夕方出荷、翌朝には店頭に
「うん、この味。こっちにはない味ですわ」
むっしゃむっしゃ、口を動かしながら白ずくめの男がうなずいた。
「大阪の豆腐はね、水っぽいんですわ」
話を続けながら、再び箸(はし)で白い塊を口に放り込む。
「そやけど、この豆腐は違う。本物の豆腐。大豆が持ってるそのまんまの甘さがしますもん。だから醤油(しょうゆ)を付けなくても食べれます」
箸を置いてにっこり。
「売れる思いますわ」
大阪市城東区、豆腐製造・卸の七福食品。が、白ずくめが試食しているのは自社製品ではない。豆腐の容器には鮮やかにこう印刷してあった。「高知県室戸深層水 健康豆腐」。
この豆腐、高知市布師田のタナカショク(田中孝宗社長)が作っている。一昨年から開発を続け、昨夏に製品化。売り出したところ当たりに当たった。そこに注目したのが七福である。この大当たり商品を大阪で売ろうというわけだ。
それにしても…。豆腐といえば、一昔前は近所の店へ容器持参で買いに行っていた。それが高知の豆腐を大阪で売るなんて。豆腐は傷みやすくて重いし、単価が安い。最も運びにくい部類の商品ではないか。
「そんな時代になったんですわ。高知を夕方に出れば、次の朝にはもう大阪の店頭に置けますから」
白ずくめの主、仕入れ担当の布袋勝生製造部長代理が笑う。
具体的にはこうなる。午後、タナカショクが七福から次の日の注文を受ける。指定の個数をまとめて夕方のトラック便に乗せる。夜遅く七福の物流センターに着き、センターのトラックで量販店チェーンの配送センターへ。配送センターから各量販店に運ばれ、開店時には店頭に並ぶ。
「運賃は一丁で二十円。関西に工場があってもそのくらいはかかります」
大阪出荷は二月スタートと決まった。当初は瀬戸大橋を通り、四月からは明石海峡大橋を利用する。徳島県内の高速道路網整備に伴って時間距離は着実に短くなるに違いない、部長代理はそう計算している。
■変わる日配物
実は、本県の豆腐業界は急速な変化の波に洗われている。台風の目となったのが鳴門市に本社を置く日本一の豆腐メーカー、さとの雪食品。数年前から本県に本格進出し、あっという間に県内シェアの二割を占めた。最近は京都産の豆腐も入り始めている。「その影響で本県業界の売り上げは去年が前年比三〇%、ことしが四〇%のダウン。すさまじく大変な時代に入ってしまった」と田中社長は嘆く。同業者の中には既に廃業したところもある。
物流の進展で最も変わるのは豆腐や牛乳などの「日配(にっぱい)物」だと言われている。その通り、高知の豆腐業界は道路網の整備によって県外資本の侵略を受けた。だが発想を逆転するとどうだろう。高知からの「攻め」もできる時代がきたのではないか。
布袋さんは言う。「少々高くてもいい物は売れます。高知の豆腐はいいですわ。ほら、色が黄色っぽいでしょう。この色が本物なんです。それにね、高知とか室戸とか、イメージがいい」。高知で百円の豆腐を百五、六十円で売ろうとしている。もちろん布袋さんは勝算を持っている。
タナカショクは昨年末から製造ラインの増設に取り組んでいる。
一日の製造能力一万五千丁をとりあえず一万八千丁に。そして四月には二万五千丁にアップさせる。増えた分はすべて大阪に運ぶ。
たかが豆腐。されど…。タナカショクは大阪へ攻め込むことで活路を開く。
【写真】深層水豆腐に注目、大阪での販売を図る布袋部長代理(左)=大阪市城東区、七福 食品
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