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◆8 しごおする(広島県)
空が夕焼けに染まるころ。広島県呉市の遊漁船「OCEAN」がしぶきを上げ、市内の吉浦港の船だまりに帰ってきた。釣り人たちの顔が明るい。釣果を持ち上げ、見せてくれた。立派なブリだった。
「船長、母ちゃんに怒られるけえ、しごおしてえや」。常連客からこんな声が飛ぶ。このまま家に持って帰ったら、妻にしかられる。内臓がごみになるし、家ではさばけないし…。だから下処理してよ、という意味だ。
船長の森崎広正さん(42)が、船上で大物を手際よくしごおする。ナイフで内臓を出し、エラを取る。「釣れんかったら気の毒で胃が痛い。しごおするんは釣れた証し。苦にならんですよ」。森崎さんの声も弾む。
日本国語大辞典(小学館)によると、「しご」という名詞から派生したらしい。農作物の世話をすること、掃除すること、料理すること…。多様な意味に用いる。今はあまり聞かれなくなったが、暮らしに溶け込んだ広島弁だった。
ところが、この言葉。語尾に「ちゃる」を付けると不穏な響きになる。「わりゃ、しごおしちゃろうか」。たちまち、けんかの売り言葉となる。広島大大学院の町博光教授(方言学)は「本来の意味に手あかがついて、俗っぽく変化したのだろう」とみる。
「海に出てみんさい、みんな穏やかな顔になる。おおらかになるよ」と森崎さん。「しごおしてえや、船長」。また、釣り人の声が聞こえる。
【写真説明】船上でブリをしごおする森崎さん。疲れも吹き飛ぶ瞬間
(中国新聞) (2006年11月21日付・夕刊) |