「あそこ(高知医療センター)で手術は受けない方がいい」―。そんなうわさ話が市中でささやかれている。
医療センターの手術件数は旧県立中央、旧高知市立市民の合計数より大きく増えている。がんセンターと循環器病センターの連携で、旧病院当時は対応が困難だった心臓病とがんを併発した患者の手術や、心臓の不整脈治療も多数こなしている。医療過誤訴訟も起きていない。
だが、不安をかき立てるうわさが立つ。そこには医療界に共通した深刻な問題が横たわっている。
自科麻酔
〈麻酔科医師を募集〉―医療センターのホームページからこの文言が消えない。当初8人いた麻酔科医のうち2人が退職した昨夏以降、補充できない状況が続く。夜間の小児救急の輪番制を崩壊寸前に追い込んでいる医師不足は、麻酔科も無縁ではない。
医療センター3階の手術室。麻酔科医は、心電図や心拍数、患者の顔色の変化に留意し、血圧を上げる薬を投与したり輸血量を変える。麻酔を施すばかりでなく、執刀医が手術に集中できるよう失血などによる患者の急変に対応し、体調を保ち続ける役割も担っている。その技術を生かして麻酔科医から救命医に転身して活躍する医師も多く、高度医療、急性期医療には欠かせない存在だ。
医療センターの手術件数は急増の一途。麻酔科医が減って以降、「技術的には問題がない」(堀見忠司副院長)として一定の経験を積んだ外科医らが麻酔科医の代わりを務める「自科麻酔」で補ってはいるが、そうした手術でも麻酔科医は患者の容体の変調に気を配り、“出番”に備えている。
1年間で8000件内外とされる手術に麻酔科医6人で対応している現状では、年中無休で勤務したとして1人1日4件の手術に立ち会う計算になる。
実際、麻酔科にはなかなか取材できない。ようやく会えた武田明雄麻酔科長は、薄青色の手術着のまま。5分程度で「24時間手術やってますよ」と言い置き、すぐに手術室に消えた。
こうした状況に堀見副院長は「今以上に高度な手術を頻繁に行うには麻酔科医の増員が不可欠」と強調する。こうも付け加えた。「うちはぎりぎりだが、まだ回っている」
深刻な郡部
開会中の県議会2月定例会の質問戦で、県内の医師不足が県政上の課題として取り上げられた。
麻酔科や小児科、産科などの医師不足は、医療センター以外の病院でも顕著だ。特に郡部ではそれが抜き差しならない状況に陥っている。
県立安芸病院では3月末に脳神経外科医が皆無になる。循環器科、放射線科の医師も不在。幡多けんみん病院でも呼吸器科や麻酔科の医師が補充できていない。このままでは、県立病院は「手術できない病院」へと追い込まれる。
橋本大二郎知事は議会答弁で、16年度から大学を卒業した医師に義務付けた「臨床研修制度」を医師不足の要因に挙げた。同制度の導入で県内医療機関への医師派遣先である大学医局の人事権限が低下し、都市と地方の医師の偏在も顕著になっているという。
「地方で医師の確保が非常に難しくなっている現状を、国にも強く訴え対策を呼び掛けていきたい」
危機感をあらわにする知事。医師の確保はかつて自治体首長の大事な仕事だったが、時を経てそれがまた首長の重要な任務になっている。
【写真説明】モニターに映し出される心拍数や血圧などに目を凝らす麻酔科医。麻酔だけが仕事ではない(高知医療センター)
=2006年3月17日付・朝刊
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