PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)事業を導入した高知医療センターの運営組織図は、「契約」が入り込むことでちょっとややこしくなっている。
病院経営を実質的に担うのはあくまで病院企業団(事務局)だが、企業団と30年契約した特定目的会社(SPC)があり、そのSPCとは給食、清掃など個別の業務ごとに契約した約20社の「協力企業」が連なって…という具合に構図は多重的だ。
靴の上から
病院企業団議会議員を務める県議は、そうした構図と開院後の状況を「靴の上から足をかいているような状態」と表現した。
それまでの自治体病院経営では、病院事務局が協力企業に当たる業者と契約を交わし、業者を管理・指導していた。事務局を「手」、業者を「足」に置き換えると、かゆいところがあれば直接、手で素足をかくことができた。
ところが、医療センターはPFI事業で、SPCという新しい「靴」を履いた。靴が高性能で快適に歩けている時はいい。だが、いったんつまずくと「かゆい所に手が届かない」状況になってしまう。
開院当初から事務局はSPCに業務改善の指示を出し、指示に応えていないと感じた時には激しい言葉を浴びせた。そうしたもどかしさからか、事務局はSPCを飛び越して協力企業に直接指示を出すこともあった。
この状況に先の県議は、効率性を追求するはずのPFI事業が「逆に非効率になっている」と疑問視するが、別の視点で危惧(きぐ)する人物がいる。医療センターへのPFI事業導入に携わり、近江八幡市民病院(滋賀県)の建設など全国でも複数のPFI事業のアドバイザーを務める前田博弁護士(東京)。
前田弁護士は「開院後の混乱を早く収めたいのは分かるが、事務局がSPCに指示を出し過ぎているんじゃないのか。このままでは、SPCは言われたことしかしなくなる」とあえて苦言を呈する。
親離れ、子離れ
前田弁護士の考え方はこうだ。PFI事業では本来、医療行為以外の業務はSPCがトップとなり、自ら考え、工夫しながら運営することになっている。それに事務局があれこれと“口出し”すれば、病院企業団とSPCとは「対等なパートナー」という協働の関係が崩れ、従来の委託・受託という上下関係になりかねない。
確かにSPC側からは「やっぱり『官』に『民』は頭が上がらない。言いたいこともなかなか言えなくて…」という声も聞こえてくる。
さらに前田弁護士は、事務局がSPCを飛び越え協力企業に指示を出すことも「長期的にはマイナス。本来の姿ではない。面倒でもSPCにやらさないと」と強調。民間のノウハウを活用するというPFI事業の長所を生かせない状況に陥るのを懸念する。
ではなぜ、そうなるのか。前田弁護士は、県・高知市からの繰入金がいつ減らされるか分からない本県の厳しい財政状況を指摘した。それが事務局を追い込み、赤字になることへの重圧でPFIの意味を見失っている、と。一方でSPCについても「要は知識不足。だから『病院経営がこんなにややこしいものだったのか』と慌てたのではないか」とみる。
双方に問題があるとの見方は、開院後9カ月たった今、院内からも聞こえてくるようになった。
開院前の準備段階でSPCとの調整役を務めた病院企業団の沖一・企画統括監は「『官』『民』がまだ親子関係にある」。互いに自立して支え合う関係を構築する必要性は認識していても、続く言葉が現状を端的に物語る。
「親離れ、子離れのタイミングと同じような難しさがある…」
【写真説明】高知医療センター内の同じフロアで病院企業団と同居する特定目的会社(SPC)。企業団と対等な立場になってこそPFI事業の真価が発揮される
=2005年12月7日付・朝刊
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