「初めての来院ですか。受付用紙に記入を」「お待たせしました。お昼をお持ちしましたよ」
受付カウンターから外来患者の元に駆け寄る女性スタッフ。患者の食べたい時間に温かい昼食を配膳(はいぜん)する職員。高知医療センターで目にするこうした“サービス”の大半は、県や高知市の公務員らで組織する病院企業団の事務局職員ではなく、特定目的会社(SPC)の「高知医療ピーエフアイ」(西名弘明社長)と呼ばれる民間会社が統括・管理している。
患者の満足度
SPCは、オリックスを代表企業として11社が出資し、医療センターの医療行為以外の周辺業務を行うために設立された会社。診療報酬の請求や給食、清掃といった個別業務ごとに約20社の「協力企業」と“民間対民間”で契約している。
病院企業団とは、協力企業への支払いや調達材料の費用などを含め約2000億円で30年間のPFI事業契約を締結。契約内容はシンプルで、清掃業務で言えば「患者に満足される生活環境を提供すること」となる。
SPCは自治体病院で病院事務局が行っていた仕事の大部分を担い、契約で定められた「患者の満足度」という水準を達成するために、自らの裁量でサービスを提供する。結果、医療センターの事務局は経営戦略や医療スタッフの人事など本来の業務に集中できる…はずだった。
ところが、開院直後からセンター事務局の複数の職員から聞かれたのは「こんな仕事をやらなくてはいけないとは思ってもみなかった」という声だった。
「甘さあった」
センターの事務局職員数はSPCとの業務分担を踏まえ、旧県立中央病院とほぼ同じ人員規模の約20人に抑制。病院が軌道に乗ればさらに職員数を削減する方針だ。だが実際は経営戦略を考えるどころではなく、「専らSPCやその傘下の企業の指導」に明け暮れてきたという。
特にSPCの医事データの取りまとめは不十分で、患者数などのデータは何度となく修正を加えなければならなかった。事務局が必要とする情報を手に入れるのに1、2カ月もかかり、県・市の自治体病院で医療事務をこなしていた事務局の職員らは「正しい数値すら発表できない」といら立ちを募らせた。
そうした原因の一つに、協力企業を指導しマネジメントする立場のSPCの職員構成に問題があり、「SPCの医療への理解度が不足していた」との見方が院内にある。
実際、SPCの幹部の半数は「医療面は素人」と言われるオリックスの社員や派遣職員。開院当初は医療事務が分かる人材がおらず、県外の病院の事務局長経験者らを補充。態勢が整ったのは開院から半年たった9月になってからだ。
こうした状況をSPCの深沢正泰副社長は「医療事務は(協力企業の)医事業者で完結できるという甘さがあった。スタートして初めてSPCがもっと専門性を高めなければいけないと実感した」と言葉少なに振り返った。
【写真説明】県・高知市病院組合(現病院企業団)とPFI事業契約を結ぶ特定目的会社(SPC)の西名弘明社長(右)。契約期間は30年に及ぶ(2002年12月8日、高知商工会館)
特定目的会社(SPC) PFI推進法では、公共施設の整備などで民間の資金や経営能力などを活用することで効率的、効果的に実施される業務を「特定事業」と規定。それを実施する企業をSPCと呼ぶ。高知医療センターでは病院の設計・建設に加え、検体検査や食事の提供、清掃など政令で定められた医療関連8業務など運営面の業務も特定事業に選定。このほか診療報酬請求などの医療事務、材料調達など病院経営にかかわる業務もSPCが担っている。
=2005年12月4日付・朝刊
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