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 22 救急医療 中
 生還―絶望のふちから
再び自分の足で歩けるように―。リハビリを続ける伊藤龍太君(右)=高知市の近森リハビリテーション病院  高知医療センター(高知市池)が開院した3月1日の夕方。高知海洋高1年の伊藤龍太(りょうた)君(16)=当時、同市東秦泉寺=は南国市内でミニバイクを運転中、対向車に衝突された。

 この日は高校の卒業式で、部活のバドミントンも休み。龍太君は帰宅後、友人たちと大好きなバス釣りに出掛けた帰りだった。

 龍太君を乗せた救急車は、医療センターの救命救急センターへ向かった。重度の脳挫傷と肺挫傷などで意識不明の重体―。緊急手術後、ICU(集中治療室)で全身を管理するとともに、脳を保護するための脳低温療法を行った。

 駆けつけた父、栄喜さん(43)の頭には“死”の文字がよぎった。変わり果てた龍太君の姿を目にした母、広美さん(43)は息子の名前を叫びながら卒倒した。

 9日目の深夜、龍太君は危険な状態に陥った。脳が激しく腫れ、頭蓋(ずがい)内圧のコントロールが困難になったのだ。スタッフは頭蓋骨の一部を取り除く減圧開頭手術を実施。危機的状況を回避したものの、意識は回復せず、一進一退の状態が続いた。

 両親は毎日、交代でICUの待合室に詰めた。その後も全力の治療が続けられたが、両親もスタッフも疲労がピークに達しようとしていた…。

 「お帰り、龍太」

 希望の光が差し込み始めたのは16日目。龍太君に左脚などを動かす反応が見られ、翌々日には目を開けるしぐさも。事故から約1カ月―龍太君は人工呼吸器も外れ、一般病棟に移ることができた。

 「お父さんが分かるか?」。数日後、栄喜さんの問い掛けに、龍太君が指やまばたきで反応し始めた。「お帰り、龍太」。息子の“生還”を確信した瞬間だった。

 龍太君は見違えるような回復ぶりを見せた。「じゃんけんしてくれた」。看護師からの一報に皆が病室へ集まった39日目。2カ月を過ぎると、携帯電話で短いメールを送れるほどに。初めておかゆを口にした時は、栄喜さんの横で看護師も泣いて喜んだ。

 3カ月後の6月5日には無理を言って外出許可をもらい、大ファンだったバンドのライブへ。非番の医師と看護師が付き添ってくれたが、会場に入るなり龍太君は熱気に包まれた会場の雰囲気に戸惑い、嫌がるそぶりを見せた。

 「まだ無理だったか…」。その時、龍太君に変化が起こった。演奏が始まると同時に、左手と首でリズムを取り始めたのだ。「こんなしぐさ、今までなかった」。曲が終わるころにはノリノリで拳を突き上げる姿があった。

 「奇跡の少年」―龍太君はいつしか、スタッフからそう呼ばれるようになっていた。

 生と死のはざまで…

 4日後、龍太君は医療センターを退院。リハビリ専門病院が紹介され、転院した。

 簡単な会話もできるようになり、身体や言語機能の回復を目指して一歩ずつ、リハビリに励む日々。病室には医療センターの看護師らが寄せ書きしてくれたバドミントンのラケットが飾られている。

 事故から1カ月。救命救急の現場で栄喜さんらは毎日、生と死のはざまを目の当たりにした。運び込まれてくる瀕死(ひんし)の患者、そして家族…。家族同士で励まし合うこともあった。

 医師や看護師らはまるで息子や弟のように龍太君と接し、時には涙を流しながら最大限の治療をしてくれた。事故は最悪だったが、医療センターは最高だった―。栄喜さんたちはそう感謝している。

 救える命を救いたい―。医療センターの救命センターは円滑な救急搬送の受け入れを目指し、各地の救急隊をはじめ、屋上ヘリポートを活用した県消防防災航空隊や県警、海上保安庁などとの連携を積極的に進めている。一人でも多くの命を守るためには、こうした救急の“入り口”の連携に加え、もう一つの連携が重要になってくる。

 【写真説明】再び自分の足で歩けるように―。リハビリを続ける伊藤龍太君(右)=高知市の近森リハビリテーション病院

(統合病院取材班)
=2005年8月8日付・朝刊



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