〈目が覚めたら、私の手を握ってくれている主人が泣いていました〉
県中部に住む茜さん(仮名)は今年4月、高知医療センターで手術を終え、病室のベッドで目覚めた時のことをそう日記に残している。
がんは卵巣に転移していた…。退院後、茜さんはそれまで東京で受けていた抗がん剤治療を、補助的なものから本格的な治療へと切り替えた。
その4カ月前、県内のがん患者や家族らでつくる「一喜会」の定例会で、県議会に提出する陳情書案について説明する茜さんの姿があった。
世界的に標準とされ、副作用も少ない―自分が受けている抗がん剤治療をほかの患者にも受けてほしい。そのためには、がん医療の地域格差をなくし、どの患者がどこの医療機関を受診しても等しく医療が受けられるシステムが必要だ。そんな思いから、茜さんは病と闘いながら国や県に対して声を上げている。
茜さんの陳情を受けて県議会は3月、「抗がん剤治療専門医の早期育成を求める意見書」を可決。続いて茜さんは県内のがん医療の充実を求める請願書を県議会に提出した。「第三次対がん十カ年総合戦略」など、国が進めるがん対策に乗り遅れないよう、県にがん対策推進本部を設置▽地域がん診療拠点病院の増設―などを求める内容。この7月に採択された。
積極姿勢の背景
県内唯一の「地域がん診療拠点病院」として「がんセンター」機能を持つ医療センター。堀見忠司副院長兼がんセンター長は7月下旬、県東部の開業医らを前に、がんセンターと地域医療連携について講演していた。
「もし(医療センターの一般外来が休みの)土曜日に、うちの医院の検査でがん患者が見つかった場合、どこに連絡すればいいのか」。開業医らからは「紹介」に関する具体的な質問が相次いだ。堀見センター長の目にはその姿勢が「積極的だ」と映った。
県立中央病院、高知市立市民病院の統合で医療連携は量的にも面的にも広がり、地域の医療機関がこれまで以上に相談や紹介がしやすくなったのでは―。堀見センター長はその背景をそう分析する。現に旧病院と比べ、医療センターが手掛けたがんの手術数は約2倍に増えている。
まだまだ不安
地域の医療機関から患者の紹介を受け、医療センターで一定の治療が済めば、地域の医療機関に患者を返す―それが医療センターが目指す連携の形。医療の地域格差を解消する上でも、連携による医療ネットワークは欠かせない。
だがこうした連携の現状に、茜さんは疑問を投げ掛ける。地域の医療機関からの紹介は進んでいるかもしれない。が、医療センターからの逆紹介の面ではまだまだ不安が残る。医療センターは地域の医療機関がどこまで患者をケアできるかの情報を持っているのか? 茜さんは抗がん剤の副作用で白血球が減少した際、対処できる病院を自力で探し回らざるを得なかった経験がある。
確かに、すべての患者がかかりつけ医など地域の医療機関にそのまま返せるわけではない。抗がん剤による継続治療が必要な患者、人工呼吸器などを付けた患者、あるいは終末期の患者…。その場合、患者に必要なケアが担える「後送病院」の確保が重要になる。堀見センター長もその点を課題と受け止めている。
「彼女のように患者さんが県外の医療機関に頼ることなく、心から信頼して医療センターに来てくれる―そうなって初めて、真の意味での“がんセンター”なんですよ」
堀見センター長は中央病院時代からの茜さんの主治医である。
【写真説明】がん患者の手術。誰もが等しくがん医療を受けられるシステムづくりが求められている(高知医療センター)
(統合病院取材班)
=2005年8月5日付・朝刊
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