6月20日、高知医療センター(高知市池)の手術室に明かりがともった。「僧帽弁閉鎖不全症」の西山實(みのる)さん(90)=安芸郡馬路村馬路=の心臓手術開始。同センターの循環器病センターのスタッフが万全の態勢で臨み、約4時間半後―そこには、手術によって命を救われた西山さんの姿があった。
体に優しい手術
手術に際し、主治医の半田武巳医師(33)=心臓血管外科=ら治療チームは、当初から一つの方針を確認していた。
僧帽弁閉鎖不全症を含む心臓弁膜症で手術する場合、自分の弁を温存する「弁形成術」と、悪くなった弁を人工弁に取り替える「人工弁置換術」という2つの選択肢がある。
「人工弁置換術」だと手術後、血液の凝固を抑制する薬を使用せねばならず、脳出血を起こすケースも。西山さんは高齢ということもあり、術後のQOL(生活の質)を考える上でも、弁は残してあげたい―。半田医師らはあくまで「弁形成術」を念頭に置いて手術に臨んだ。
弁の形や心臓の機能、患者の状態に応じて、一人一人の患者に最も適した手術法を選択し提供する―循環器病センターが掲げる“体に優しい手術”の一環だ。
そのルーツは旧高知市立市民病院にまでさかのぼる。市民病院では早くから、患者の身体的負担を最小限に抑えた「低侵襲心臓手術」に取り組んでおり、人工心肺を使わず、心臓も止めずに行う冠状動脈バイパス手術など、その実績は国内外の学会でも高く評価されてきた。
“体に優しい治療”―高齢社会を迎える本県医療にとっては重要なテーマだ。
病院の見方変わった
手術後、ICU(集中治療室)に入った西山さんは手術から約6時間後に人工呼吸器が外され、2日目には一般病棟へ…と順調に回復していった。
何よりうれしかったのは、手術前に比べ格段に呼吸がしやすくなったこと。呼吸器が外れると、西山さんは「あんパンが食べたい」と一言。生命力の強さに周囲を驚かせた。
西山さんの闘病をずっと見守ってきた二男の妻、有利さん(53)はその回復ぶりに目を細めていた。有利さんは13年間の補助看護師経験がある。
義父にとっては初めての大手術、そして長期入院と、つらい日々の連続。手術への不安とストレスから荒れたこともあった。そんな時でも看護師は何一つ嫌な顔もせずにケアしてくれた。
ほかにも、食事が食べられなければ、自分でメニューを選ぶことができるなど、有利さんは病院に対する認識を新たにした。
手術から3週間後の7月11日、西山さんは医療センターを退院した。
退院後もリハビリを受けなければならない西山さんは、医療センターからの逆紹介で、以前、入院したこともある岡村病院(高知市入明町、岡村高雄院長)で、治療を受けることになった。
「100歳を目指して頑張ってください」
退院前、孫ほども年齢の離れた半田医師からかけられた言葉が西山さんの心に今も残っている。
「馬路に帰って心臓の悪い人がおったら、あそこを紹介しちゃらなあいかん」
診断、入院・手術、そしてリハビリ―と、病診・病病連携に基づく医療ネットワークの中で、健康を取り戻しつつある西山さん。今回の経験はその心に、医療に対する安心と信頼という文字を刻んだ。
【写真説明】電子カルテを見ながら症例について検討する岡部医師=左=と半田医師(高知医療センター)
(統合病院取材班)
=2005年8月3日付・朝刊
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