
その生涯にわたって変貌する芸術を展望できるのが、パリのピカソ美術館である。
「青の時代」「バラ色の時代」「キュビスム」「新古典主義」「シュールレアリスム」「彫刻・陶芸」――。
それぞれの時代を代表する極めて重要な作品を含みながら、バランスよく配置がされている。広大な美術館ではないが、密度の濃い内容に圧倒される。
生前ピカソは「自分は世界一のピカソのコレクターだ」と言っていた。フランス政府は、ピカソが亡くなる5年ほど前に新しい相続法を施行した。それは遺産相続税を芸術作品で物納してもよいという内容を含んでいた。
狙いはピカソにあったとも言われるが、その巨大な存在は政府も認識していただろう。ともあれ新法によって貴重なコレクションの散逸はまぬがれ、ピカソ美術館となって鑑賞ができる。
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「ああ、いきなりの『自画像』ですねえ……」
県立美術館の松本教仁・学芸員が感嘆を込めてつぶやいた。
順路に沿って「青の時代」の部屋から鑑賞を始めたのだが、真っ先に飛び込んできたのが「自画像」であった。ピカソ画集では必ずといっていいほど収録される重要作品だ。1901年に描かれたものだから、ピカソ20歳ごろの「自画像」となる。
力を持つ本物の絵画は、現実の人物や風景や事象よりも強い存在感をしばしば放つ。この「自画像」からは、20歳のピカソをありありと感じた。
それは、とても20歳とは思えない老成した姿であり、諦観(ていかん)が漂う中に、何か恐ろしいまでのことをやってのけそうな静かな野心である。
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スペイン、フランスの美術館をめぐっていて、心和んでうらやましく思うのは、先生の引率で園児や小学生たちがゆっくりピカソの絵画を鑑賞していることだ。
マドリードの「ゲルニカ」の前でもそうした光景があったし、このパリの美術館においても絵や彫刻を前に、何やら熱心に意見発表をしていた。
目をきらきらさせている彼らを見ていると、われわれ大人たちよりも、ずっと鑑賞が深いのではないかとも思うのである。
【写真】ピカソの絵画や彫刻を熱心に鑑賞し、意見を述べる小学生たち(パリのピカソ美術館)