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「高知競馬」という仕事
     =第5部= 公務員たちの現場
 【9】

 馬を「真ん中」に  ――元職員「前例や協約に縛られるから」

 4年前、高知競馬の従事員約80人(高知競輪にも勤務)が有給休暇を取り、同じ日に高知競輪で働き、“二重勤務”の状態になったことがある。

 ところが当時の県競馬組合幹部は申請通りに有休を認め、賃金を支給した。いわゆる「二重払い」。さすがに一部の職員から批判の声が出た。

未来へ(高知競馬場)  内部ですったもんだがあって、結局は労組側が1カ月後に自主返還したが、当時を知る関係者がやりきれなさそうに言った。

 「たまたま職員が知って止まったそうだが、もし実施されていたら、そのまま慣例になっていたかもしれない。1回始まると、公務員はなかなか止められない。前例や協約に自分で縛られるからね」

 もう一つこんな話も。

 この連載第5部の1回目で、県競馬組合が右翼団体の男性から肥料を買っていた話を紹介した。すると、複数の人が電話をくれた。聞けば右翼団体の男性は十数年前から近年まで、高知競馬の特別観覧席に「無料招待」されていたという。

 「ある時に『こっちは高い金払ってるのに、なぜあの人は無料か』って抗議したんです。職員は答えましたよ。『昔から世話になっているので、見て見ぬふりをしてほしい』って」

   □────□

 事業に携わった人を「過去の人」にさかのぼって訪ねて歩いた。

 なぜこれほどまでに赤字が膨らんだのか。なぜ高知競馬は立ちゆかなくなってきたのか。「公務員競馬」とは何だったのか。

 例えば、経営の当事者である県は競馬場の建設費の借り入れや処理に“トンネル組織”を介在させた。

 例えば、県競馬組合に送り込まれる経営陣は、特定団体との付き合いなどを引き継いでいった。

 例えば、年度当初に赤字を想定したまま予算を組み、借金返済のためにさらに借金を重ね、流れにのまれるように仕事をした。

 冒頭の職員が言う。

 「責任を取る必要がないシステムなんです。言い換えれば、責任を取れない人に経営を任せている。極端な話、2、3年で代わっては責任の取りようもない。わざと、そういう仕組みにしているんです」

 競馬経営には、行政の体質が凝縮されている。

   □────□

 一昨年春、初めて取材で高知競馬の厩舎(きゅうしゃ)に入った。背後から、息遣い。湿った鼻面。ぶふうんと息が吹き下りた。手に張り付くような肌。自分の顔が映っている大きな目。これか、これが、馬か。

 ろっ骨を折っても馬に乗る調教師。蹴(け)られたのどに穴が開いたままの厩務員。無事に帰った馬に「お帰り」と言う妻。「ちゃん」付けでしかる女たち。金がないから文具の下敷きでゴーグルを作る騎手。負け続ける馬と、馬から離れられない調教師と、きっちり働く茶髪の青年…。

 日本中の馬が流れ着く現場は「終着駅」とも「再生屋の集まり」とも呼ばれ、見回せば目まいがして、濃密なにおいがした。興奮した。面白かった。

 競馬経営の真ん中に位置するのは自治体の都合ではなく、職人たちであり、馬であってほしい。あらゆる経費を削ってでも、投資するべきは馬なのに。

 高知競馬のなだらかな坂を東に進むと、騎手や厩務員が働く厩舎団地が見えてくる。馬が息をしている。きょうもどっこい、人々が働いている。競馬の真ん中に、「馬」の立つ日を待ちたい。

 取材 石井 研
     小林 司
     依光隆明
 写真 佐藤邦昭

 =シリーズおわり

 【写真】未来へ(高知競馬場)

平成16年7月2日付夕刊掲載


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