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「高知競馬」という仕事
     =第5部= 公務員たちの現場
 【6】

 歴史の積み重ね  ――元局員「ものには流れというものが…」

 累積赤字が20億円を超えた平成6年度。県競馬組合発足後、十数人目の事務局長として一人の県職員が着任した。

 この元県職員(65)は「財政再建」を目指し、さまざまな経営改善に乗り出す。宿毛市への場外馬券場の建設、騎手や厩務(きゅうむ)員らへの賞典奨励費の削減…。ところが、幾つかの重しがのしかかった。

歯を削る(高知競馬場)  その一つ目―。

 「建設ローンです。私の在任中、返済額は確か年間6億円ですよ」

 昭和60年の競馬場移転時に背負わされた建設償還金は、「使用料」名目で県と高知市に徴収された。競馬組合はその支払いのために銀行から金を借り、その金利を払うため、また借りた…。

 「借金地獄です。事業者である自治体が自分のところの施設から使用料を取るのはおかしい、こんなのは高知だけだと本庁に怒ったんですけど。『(返せなくなったら)いずれ県市が(税金で)埋めればいい』という緩い空気があって、うやむやになりました」

 退職者の不補充などで経費削減も目指したが、従事員の賃金などは「聖域」になっていた。

 「個々人の賃金は最高で日額1万円を超えていたけど、これが動かせない。賃金カットで訴訟になった過去の経緯もありますし」

 賃金や一時金をめぐる団体交渉には頑として臨んではいた。

 「自分で腹を立てないようにノートに『静』の文字を書いて交渉しました。でも、向こうは最後に『明日は馬券を売らない』とストをちらつかせてくる。スムーズな運営を第一に考えますから、これには参った。結局、賃金を上げたこともあった。ほんの少しですけど…」

 観客の見込み数にも実績にもかかわらず、希望者全員を日々(にちにち)雇わねばならない登録制や退職金、年休制度…。従事員の雇用の仕組みに当初は疑問も感じた。

 「でも、そう感じたのは最初だけ。彼女たちは不安定な身分で苦しい時代を乗り越え、団結で賃金や待遇を勝ち取ってきた。それは一定、理解せねばならないんじゃないかな」

 高知競馬と高知競輪での販売業務は戦後、夫を亡くした人や生活困窮者、被差別部落の女性らの貴重な働き口だった。昭和35年、女性たちは県総評のバックアップで組合を結成し、待遇の改善に立ち上がる。いつのころからか、従事員の権益は同和団体が擁護するようになった。

 「それはもう、はっきり言って、ものには流れ、というものがあるから。これも過去の長い歴史の積み重ねがあるわけで」

   □────□

 在職は5年間。着任した平成6年度と、3年後の9年度を比べると、宿毛市への場外馬券場の設置を受け、売上額は約16億円増えた。しかし一方で、同馬券場への投資などで累積赤字もほぼ同額膨らんだ。10年度には中央競馬の電話投票の加入者数増加などの影響で売り上げが減少に転じ、売上額は元年度以降、初めて160億円割れとなった。

 「私としては金利負担と中央競馬の電話投票という重しが一番、痛かった。競馬場を最後に県を退職でしてね。ああ、これで終わる、山奥の故郷へ帰って農業をしようって、そう思いました。ただただ、しんどい5年間でした」

 【写真】歯を削る(高知競馬場)

平成16年6月29日付夕刊掲載


【続き】

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