|
「南海トラフの海底下にはメタンを作る菌だけでなく、分解する菌もいるんですよ。それも複数の種類が」
松山市にある愛媛大沿岸環境科学研究センターの鈴木聡教授は熱っぽく、自身の研究成果を語り始めた。
■真正細菌
約2年前、フランスの調査船によって、四国沖の南海トラフの海底下から海洋コアが採取された。鈴木教授は高知大の海洋コア研究センター(現海洋コア総合研究センター)と共同で、そのコアのうち海底表層から約27メートル下までの試料を分析した。
多くの微生物のDNA(デオキシリボ核酸)が検出され、現在までに真正細菌19種、古細菌3種が分類できている。「古細菌」「真正細菌」「真核生物」の3種類に大別できる生物のうち、メタンを作るのは古細菌だ。
残念ながらコアの中の古細菌がメタンを作る細菌かどうかは不明という。しかし、鈴木教授は北海道十勝沖で採取したコアからメタンを作る古細菌を見つけており、「四国沖にもいるはず」と力説する。
それより、四国沖の海洋コアで鈴木教授らが驚いたのは真正細菌の方だった。DNAの塩基配列から、硫化水素を分解する細菌やメタンを分解する細菌が多数含まれていることが分かった。特にメタン分解菌とみられる細菌は3種検出され、いずれも新種だった。
■収支の謎
「現在の分析技術には限界があるので、古細菌も見つからないだけで、本当はもっと多く潜んでいるのではないかと考えています。いずれにしても、海底下にはメタンを作る細菌とそのメタンを食べてしまう細菌が共存しているということです」
海底下には膨大な量のメタンハイドレート(メタンガスが氷状の水分子に閉じ込められた層)が存在するが、決してメタンは作られる一方ではなく、別の生物によって消費もされている。
鈴木教授は言う。
「酸素も光も届かない海底下も、生物がいる以上、生態系は存在し、物質が循環しているのです」
海底下では細菌の働きで有機物が二酸化炭素となり、やがてメタンになる。そのメタンを別の細菌がまた分解して二酸化炭素に戻してしまうが、それでもメタンハイドレートが存在する。
「やはり問題はメタンの“収支決算”がどうなっているかです」と鈴木教授。メタンがどのような収支バランスを保ち、それが地球環境にどう影響しているのか。そもそもなぜメタンハイドレートが存在するのか。コアに詰まった未知の世界に興味は尽きない。
【写真】2年前に四国沖で海洋コアを掘削したフランスの調査船(高知港、高知大海洋コア総合研究センター提供)
(2003年7月21日付朝刊掲載)
|