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昨年、1本の記録映画が完成した。タイトルは「深海3572mに生きる―室戸沖南海トラフ4年間の記録」。室戸沖の深海生物の知られざる営みが収められ、科学技術映像祭で総理大臣賞にも輝いた傑作だ。
この映像こそ、高知大学海洋生物教育研究センターの岩崎望助教授と同大理学部の岩井雅夫助手が、室戸沖に沈められた「先端観測ステーション」を利用して取り組んだ深海観察の集大成だ。
■4年で70余種
記録映画は平成9年から4年間にわたる観察結果をまとめている。カメラの角度を変えながら長時間、撮影を続け、4年間で70種以上の生物を観察することに成功した。
深海や日本近海では珍しい種類の魚やタコもぶらりと姿を見せ、ヤドカリの仲間、シンカイコシオリエビの脱皮場面の収録は世界初となった。
その脱皮殻に残っているゼラチン状のタンパク質を食べるイトアシエビや、シンカイコシオリエビの死がいを、あの手この手で口にしようとする別の生物たちの姿も映し出されている。
同時にシンカイコシオリエビなどが海底にたまったマリンスノーをせっせと食べる様子も。マリンスノーは海の表層のプランクトンの死がいや生物の排せつ物だ。
「つまり、ここも表層と同じように光合成を起点とする生態系があるということです。光が全く届かない南海トラフも、マリンスノーによって太陽の恵みを受けている」と岩崎助教授は言う。
■震動を利用
撮影された生物の動きは非常にゆっくりしているが、時には甲殻類が盛んにはさみを振ったり、餌の奪い合い、がっぷり四つの格闘も見られる。シンカイコシオリエビ同士の格闘では、目がほとんど見えないはずなのに、互いに正面を向き合って戦っている。
岩崎助教授は「振動や流れ、においで相手を感じていると思われます。ただ、格闘で正面を向き合うことが、果たして震動やにおいだけで可能なのかは疑問です」。
このようにたくましく生きる室戸沖の南海トラフの深海生物。ただ、不思議なことがある。4年間の観察で、けんかは見掛けても、生物が生きたまま他の生物のえじきになる場面は一度も確認できなかったという。
「深海は暗く冷たく過酷な世界と思われてきたが、生き物は厳しい環境にすむ代わりに、襲われることの少ない安定した暮らしを手にしたのかもしれない」。記録映画はこう締めくくっている。
【写真】シンカイコシオリエビの抜け殻に残ったタンパク質を食べるイトアシエビ(先端観測ステーションから撮影、海洋科学技術センター提供)
(2003年5月18日付朝刊掲載)
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