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2月11日、佐賀競馬場の「佐賀記念」。中央の有力馬と各地方のエース級を集めた1着賞金3000万円のレースは、この日もゲートの金属音で始まった。
距離2000メートル。エイシンドーサンは珍しく横一線でゲートを出た。それでもトクさん=徳留康豊さん(43)=は後方に馬を引き、しんがりの一団から前を追う。
12人の騎手が、7400人が埋めたスタンド前を駆け抜ける。卵を産み付けるトンボのように腰を丸め、高く上げ、馬を両脚ではさんで進んでいく。
「ましまああ(真島)」「きたむらああ(北村)」。佐賀の騎手を呼ぶファンの熱い声。
「ゆたかあー、行けー」の雄たけびは、武豊騎手を励ます声援だ。
横山典弘騎手(中央競馬)の馬券を買ったのであろうおじさんが、背伸びして「ヨコテン(横山騎手の通称)どこや、どこや」と横揺れしている。
「ドーサン、やっちゃれー」
やけくそのように隅っこで騒いでいるのは、私たち取材班と、高知から応援に来た同僚である。
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エイシンドーサンの調教師、竹内昭利さん(47)はレース前日、トクさんに一言だけ注文を付けた。
「トク、今度は早めに仕掛けて」
これまでドーサンは最後で伸びてきた。最下位に沈んでも構わないから、早いうちから馬を上げ、最後の脚に懸けてくれ――。そういう意味だった。
向こう正面。外寄りを回ってきたトクさんが、これまでにない早さで動きだした。トクさんの勝負服が揺れながら、攻め上がろうとするのが見える。
12頭中「最低人気」のドーサンだが、向こう正面と3コーナーで中央競馬の1頭と佐賀の2頭を抜き去った。「おお、3頭を置き去りや」。高知組がささやかな喜びに浸る。
4コーナーを回って9着。最後で伸びれば、掲示板(5着以内)に入るかもしれない。
「トク、来い」「トク、来ーい!!」
トクさんが追ってくる。身を縮め、脇を締め、両かかとで馬の胴体を引き絞って重心を取りながら、上下に動く首を手で押し、むちを入れて上げてくる。
武騎手のエアピエールが大歓声の中をトップで駆け抜ける。泥もつれの中団はごちゃついたまま、余韻の中を駆け抜けた。
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「ああ。なかなか追い付かんもんやなあ」
レース後、調教師の竹内さんは体を洗うドーサンを見ながら、心底すっきりした顔で言った。
「トクは完璧(かんぺき)やった。馬のすべてやろ。納得」
ドーサンは伸び切れなかった。12頭中9着だった。トクさんはまじめな顔で馬に感謝した。
「ドーサンは人間の年齢ならおれと同級くらい。ほんと、よかった。一生懸命走ってくれた。きょうは息も合ってた」
ことし9歳のドーサンは、これが最後の遠征になるかもしれない。
それよりなにより、本体の高知競馬は存廃をめぐって揺れている。
冬から春の「祭り」が終わると、しんみりして、疲れがどっと来た。
レースの3週間後、トクさんは金沢競馬に移る決心をした。
【写真】レース直前、緊張感がみなぎる装鞍(そうあん)所。トクさんはドーサンの顔を見た(2月11日、佐賀競馬場)
(平成15年3月29日付夕刊掲載)
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