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「高知競馬」という仕事
     =第4部= 神様を追いかけて
 【7】

 おれみたいな馬  ――馬主「一頭でも負かしたら、承知しないわよ」

 昨年11月26日午後4時前、岐阜県・笠松競馬場の「全日本サラブレッドカップ」。雨上がりの1400メートルコースに、中央競馬の有名馬と各地方のエース級計10頭が挑んできた。

第1コーナー。ドーサンとトクさん=右から2番目=は泥まみれで前を追った(昨年11月26日、岐阜県の笠松競馬場)  ファンファーレが鳴って、スタンドがざわめいて、がしゃっ! ゲートの金属音が響くと、中央競馬でおなじみのヤマカツスズランが飛び出した。「おーっ」。どよめきが渦を巻く。

 高知競馬のトクさん=徳留康豊さん(43)=とエイシンドーサンは大外から2番目の9枠。ドーサンはひと呼吸遅れ、がくっとつまずくようにしてゲートを出た。

 トクさんは言っていた。「いつも同じスタート。つまずいてから始まる人生みたいなもんで。おれみたいな馬」

 最初の直線からドーサンは最下位。前の馬がはね上げる泥を浴び、瞬く間に素焼きの土器のごとき形相になった。

 第2コーナー。前を行く福永祐一騎手(中央競馬)のサンフォードシチーがドーサンに泥を蹴(け)り上げ、ターボエンジンを噴かせるようにスピードを上げた。ぽつんと一頭、ドーサンが置いていかれる。

 ヤマカツスズランは向こう正面の直線を泥をはね上げて大逃げ。船橋競馬のコアレスフィールドと、蛯名正義騎手(中央競馬)のノボジャックが離れて追う。縦に長い隊列。ドーサンとは十馬身以上開いた。

 レースを見るために駆けつけたドーサンの馬主、木村都さん=大阪市の会社役員=の横で、観客のこんな声。

 「おい一頭だけ、ひでえ馬いるなあ」

 ドーサンのことだった。都さんが怒る。

 「見てなさいよ。一頭でも負かしたら、承知しないから」

 ドーサンの厩務(きゅうむ)員の桑名政男さんは、連戦が続くドーサンの体調を気遣いながら見つめていた。

 「無事ならええ。けがせんと回ってきたら、おれはそれでええ」

 第3コーナー。トクさんは前を追って、画面の早送りのようにむちを入れる。差を詰める。しかし、まだ最下位。

 第4コーナー出口。ドーサンは、笠松競馬の安藤勝己騎手が乗るフジノコンドルに馬体を併せた。トクさんは真横を向いて、安藤騎手に何やら声を掛けている。テレビモニターに映っている。

 「かつみー、おまえの馬走らんなあ」

 「おう、いかんわ」

 「アンカツ」でおなじみの安藤騎手とトクさんは、それぞれ笠松と名古屋で駆け出しのころからの友人。トクさんはアンカツを外側から抜き去ると、最後の追い込みむちを入れてきた。

 ヤマカツスズランはズームレンズで被写体を引き寄せるように最後の直線で爆発的に伸びて、ぶっちぎりで駆け抜ける。

 「うおーっ」と歓声。

 ドーサン、まだある。追え―。

 トクさんが馬体に張り付く。泥細工のようなドーサンが、後ろからぐーっと上げてくる…。

 【写真】第1コーナー。ドーサンとトクさん=右から2番目=は泥まみれで前を追った(昨年11月26日、岐阜県の笠松競馬場)

平成15年3月19日付夕刊掲載


【続き】

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