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昨年11月末。岐阜県・笠松競馬場で開かれた「全日本サラブレッドカップ」の前夜、高知のエイシンドーサンで挑むトクさん=徳留康豊さん(43)=は、名古屋競馬時代の騎手仲間や後輩と飲んだ。心から楽しそうに、十数年ぶりの名古屋を味わった。
「いいか、おまんら聞けい。おまえたちが名古屋で捨てた馬を、おれたちは高知で真剣に乗ってんだあ!!」
昔ライバルだった仲間の肩をもみながら、今度はしんみりした。
「もし高知つぶれたらさあ、おれ名古屋で厩務(きゅうむ)員できねえかなあ…」
騎手仲間と別れた後は、トクさんと私たちだけになった。
「もう1軒行こ。もー1軒。この辺によお、ドノバンって店がよお、どっか、あらあや」
「もう遅いから。トクさん、明日はドーサンと大勝負だし」と止めても、「かまんちゃあ、おらあ高知の徳留じゃきー」。言いたい意味がよく分からない。
煌々(こうこう)と輝く繁華街で「ドノバン」を見つけて入ると、17年ぶりに会うマスターが、「あれえ」という表情で立った。
「トクちゃあーん? ほんとにい?」
「うーっす」
「さっき競馬新聞の人が来ててさあ。久しぶりにトクちゃんが笠松来るって、話してたとこよお」
カウンターに競馬予想紙を広げて見せる。
「いいかいトクちゃん、明日の笠松は雨だからね、先行有利だからね」
「うーっす」
「行った、行ったの競馬だからね。ゲート出たら、むちたたくぐらいでちょうどだよ」
「うーっす」
にわかに騒がしくなったカウンター。女性従業員が寄ってきた。「あした、ご乗車ですか?」
「それそれ、あしたご乗車、ご乗車あ!」
割って入るマスター。
「トクちゃん、トクちゃん、レースは、もうきょうだよ」
午前零時すぎ。…急に真顔になる。
「(交流レースで)いろんな競馬場で乗るけどよお、高知の騎手よお、うめえんだって」
声が高くなる。
「こないだ見た競馬場の騎手なんかさ、最後の追い方、零点。馬が迷惑してたよ。岸和田のだんじりじゃねえって」
もどかしそうに続ける。
「高知の騎手よお、あか抜けてるんだって。マー(北野真弘騎手)、西川、中西、中越…。せめて若いやつはさあ、(中央競馬で)勝負さしてやりてえ。おれも勝負してえ」
グローブのような分厚い手で拳をつくって、カウンターをドン!
「みんな同じ騎手で免許持っててよ。中央競馬にゃあ絶対乗れねえ、ほかの地方でもまず乗れねえ。なんのための免許だよ」
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午前1時前。再び、ご機嫌。…泥酔。
「ホテルに帰りましょうよ」と促しても、聞かない。
「レースは魂よ、なーんちゃって」「勝負しちゃるーっ、てか…」
――と話すトクさんを振り捨てて、私たちは先にホテルに帰ったのだった。
【写真】レース前、体重計に乗るトクさん。レースまでには調整ルームのサウナで減量するなどして、体調を整える(昨年11月26日午後3時ごろ、笠松競馬場)
(平成15年3月18日付夕刊掲載)
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