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「高知競馬」という仕事
     =第4部= 神様を追いかけて
 【6】

 同じ騎手なのに  ――マスター「トクちゃあーん? ほんとにい?」

 昨年11月末。岐阜県・笠松競馬場で開かれた「全日本サラブレッドカップ」の前夜、高知のエイシンドーサンで挑むトクさん=徳留康豊さん(43)=は、名古屋競馬時代の騎手仲間や後輩と飲んだ。心から楽しそうに、十数年ぶりの名古屋を味わった。

レース前、体重計に乗るトクさん。レースまでには調整ルームのサウナで減量するなどして、体調を整える(昨年11月26日午後3時ごろ、笠松競馬場) 「いいか、おまんら聞けい。おまえたちが名古屋で捨てた馬を、おれたちは高知で真剣に乗ってんだあ!!」

 昔ライバルだった仲間の肩をもみながら、今度はしんみりした。

 「もし高知つぶれたらさあ、おれ名古屋で厩務(きゅうむ)員できねえかなあ…」

 騎手仲間と別れた後は、トクさんと私たちだけになった。

 「もう1軒行こ。もー1軒。この辺によお、ドノバンって店がよお、どっか、あらあや」

 「もう遅いから。トクさん、明日はドーサンと大勝負だし」と止めても、「かまんちゃあ、おらあ高知の徳留じゃきー」。言いたい意味がよく分からない。

 煌々(こうこう)と輝く繁華街で「ドノバン」を見つけて入ると、17年ぶりに会うマスターが、「あれえ」という表情で立った。

 「トクちゃあーん? ほんとにい?」

 「うーっす」

 「さっき競馬新聞の人が来ててさあ。久しぶりにトクちゃんが笠松来るって、話してたとこよお」

 カウンターに競馬予想紙を広げて見せる。

 「いいかいトクちゃん、明日の笠松は雨だからね、先行有利だからね」

 「うーっす」

 「行った、行ったの競馬だからね。ゲート出たら、むちたたくぐらいでちょうどだよ」

 「うーっす」

 にわかに騒がしくなったカウンター。女性従業員が寄ってきた。「あした、ご乗車ですか?」

 「それそれ、あしたご乗車、ご乗車あ!」

 割って入るマスター。

 「トクちゃん、トクちゃん、レースは、もうきょうだよ」

 午前零時すぎ。…急に真顔になる。

 「(交流レースで)いろんな競馬場で乗るけどよお、高知の騎手よお、うめえんだって」

 声が高くなる。

 「こないだ見た競馬場の騎手なんかさ、最後の追い方、零点。馬が迷惑してたよ。岸和田のだんじりじゃねえって」

 もどかしそうに続ける。

 「高知の騎手よお、あか抜けてるんだって。マー(北野真弘騎手)、西川、中西、中越…。せめて若いやつはさあ、(中央競馬で)勝負さしてやりてえ。おれも勝負してえ」

 グローブのような分厚い手で拳をつくって、カウンターをドン!

 「みんな同じ騎手で免許持っててよ。中央競馬にゃあ絶対乗れねえ、ほかの地方でもまず乗れねえ。なんのための免許だよ」

   □────□

 午前1時前。再び、ご機嫌。…泥酔。

 「ホテルに帰りましょうよ」と促しても、聞かない。

 「レースは魂よ、なーんちゃって」「勝負しちゃるーっ、てか…」

 ――と話すトクさんを振り捨てて、私たちは先にホテルに帰ったのだった。

 【写真】レース前、体重計に乗るトクさん。レースまでには調整ルームのサウナで減量するなどして、体調を整える(昨年11月26日午後3時ごろ、笠松競馬場)

平成15年3月18日付夕刊掲載


【続き】

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